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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「カラオケ行こ!」


「紅」が、あんなにええ歌やったとは・・・。すっかり書くのが遅れちゃいましたけど、これもとっても面白かった!やくざと真面目な中学生の触れ合いがメインのようで、そちらは実はスパイス。思春期前半から後半へと、揺れ動く中学生たちの憂鬱や男女の差などを、飄々と奥深く描いてた、青春ものだと思います。監督は山下敦弘。

合唱部の部長の聡実(齋藤潤)。中学生活最後のコンテストがあるのに、変声期で声変わりしつつある自分の声が、悩ましい。ある日、見知らぬやくざの狂児(綾野剛)から、「カラオケ行こう」と声をかけられ、引っ張っていかれます。もうじき組長(北村一輝)の誕生日なのだが、カラオケ大会で一番下手に歌うと、恥ずかしい刺青が彫られる。なので、それを防ぐべく、聡実にレッスンして欲しいと言います。

勿論断る聡実くんなのですが、気がつけば狂児にいつも拉致られ、カラオケへ。脅しも一切なしで、見事なお手並み。やくざにしたら、真面目な中学生なんて、赤子の手を捻る様なもんやもんね。「聡実く〜ん」と、はんなり呼びかける狂児の様子は、頭は怖いやくざと理解していても、心は油断させてしまうのでしょう。

聡実くんは、もう一つ「映画を観る部」というクラブの特別部員で、合唱部の事や狂児の事、色んな悩みを、モノクロのクラシックの名作映画を観る事で、ヒントを貰っています。この様子がとってもグッと来てね。私も年相応のアイドル映画なんか見向きもせずに、往年の名作がテレビで放送されると(レンタルもサブスクも無い時代)、必死でビデオ撮って観てたもんな。アイドルにキャーキャー騒いでるあんたらとは、ちょっと違うでと、節度は持っているつもりながら、選民意識も持っていました。あの頃の私は、頭でっかちの、理屈っぽい女子であったなと、彼らを観て懐かしく思いました。

この作品は、思春期の男女の成長の差も描かれています。聡実くんの悩みも知らず、練習に熱の入らない彼に、食って掛かる後輩君。その度に副部長の中川(八木美樹)が宥めに入る。「中川、何してんの?」「子守りや」の、他の女子の言葉には大いに笑いました。一つしか年が変わらんのに、子守りってか?(笑)。心が体の成長に追いつかない子。またはその逆。中学生が、一番心身共に不安定であることを、ゆるゆると描きつつ、深く心に残りました。

初対面の狂児の「紅」に、「裏声が気持ち悪い」とバッサリの聡実くん。その他、組のもんの歌にも「声が汚い」「ビブラートが多すぎる」と、また毒舌吐いて、バッサバッサ。物怖じしなさ過ぎですが、ヤクザ相手に自分の意見がしっかり言えるのは、観てい小気味良くて、笑いのポイントも高しです。

思うにね、聡実くんは両親に恵まれているのよな。「おもろないから」と、自分の生まれたての息子に「狂児」と名付ける父親(加藤雅也)と、鶴亀の傘を息子に買う父親(宮崎吐夢)では、同じ酔狂でも質が違う。だって鶴は千年亀は万年じゃ。長寿健康を息子のため、祈ってんのよ。それが「聡い果実」という、若々しくて賢い名前に込められてんのよな。

「狂児」という名を背負って生きるのは、辛い事も多かったはず。家裁にでも掛け合ったら、この場合なら本名の変更は認められるはず。そのままだったのは、母親もそれなりの人だったんでしょう。明らかにおかしい自分の親を怨むでもなく、暗に聡実くんの親を褒める狂児は、やくざながら、人格は高い模様です。


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01月27日(土)
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