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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「最後の決闘裁判」


またまた三時間近い作品(嫌だ嫌だ)。それでも久々の名匠リドリー・スコット監督作なら、観るしかありません。実際にあった14世紀のフランスの裁判を題材に、とても重厚に作られた作品。温故知新な内容で、一見剛健な男性向け作品と見せかけて、実は女性に向けて、とても示唆に富んだ内容で、大変面白かったです。

14世紀のフランス。騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)は、ジャンの友人ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)から強姦されたと夫に訴えます。しかし目撃者もなく、無実を訴えるジャックと重罰を望むジャン。そこで真実の行方は、神が正義の者を勝利に導くと信じられていた、互いの生死を懸けた決闘裁判に委ねられることに。それは、ジャンが負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりとなると言う非情な裁判でした。

男性二人の決闘場面までは、ジャン、マルグリット、ジャックの三人の視点から、じっくり描かれていて、これが長尺の所以でした。無駄に長いのは御免ですが、これは納得の長尺です。

「羅生門」と似ているとの評判でしたが、私の感想は似て非なるもの。「羅生門」は真実を見つめていた人物がいましたが、この作品は各々嘘偽りのない自分の感情です。

私が嘆息したのは、ジャンとマルグリットの夫婦としての体温の差。いくら大昔の男尊女卑がまかり通る時代であっても、隔たりが多すぎる。マルグリットは実父の失地挽回のため、多くの領土と共に、貢物のようにジャンに差し出された花嫁です。それでも、美しいマルグリットに一目惚れのジャンは、武骨で直情的な男ですが、妻の人格を重んじ、こよなく愛しているように、彼の視点では思えました。

ところがところが、マルグリットの視点になると、夫は妻の存在より領土が大事、妻に望むものは子供を生む事。妻の命より己がプライドを重んじ、人格を尊重するどころか、終始妻は自分の所有物扱いです。だから、先妻とマルグリットを比べる、極めてデリカシーの無い言葉も出るのです。

私が瞑目したのは、これはジャンの視点であるのだから、彼は「これで」心から妻を愛していると思い込んでいる。これは今の夫婦の在り方にも通じるもので、昨今問題となるモラハラの正体じゃないでしょうか?

ジャックのパートは、彼が恵まれぬ出自であり、かつて修道士を目指していたため、博学であること。その事を権力者のピエール(ベン・アフレック)に見込まれ、財政を立て直し、ピエールの寵愛を受け側近に取り立てられる道程が描かれます。しかしジャックが気に入られたのはその事でなく、狡猾で好色なピエールの破廉恥な乱交パーティーにも付き合える、「話の解る」男で有る事が強調されているように感じました。

そしてその事に、葛藤も感じないジャックに私は落胆。ジャックは頭脳明晰な優秀な男です。プライドを持つならそこなのに。そしてこれまた一目惚れしたマルグリットにも、学が無く戦場でしか輝けないジャンより、自分の方がマルグリットに似つかわしく、彼女もそう思っていると自惚れるのです。レイプの後、君も楽しんだだろうと言うジャックに、心の底から怒りが湧きました。この許せぬ思い上がりも、今に通じているのでは?

この事件には、私はジャンの母親が絡んでいると思いました。意図的にマルグリットを屋敷に一人にして、それをジャックに教えたのでは?彼女も過去にレイプされた事があり、自分は胸に収めて夫には言わなかったと、マルグリットを詰ります。自分のように、マルグリットも夫に告げないと思ったのでしょう。こんな大騒ぎになるとは思わず、ジャックに息子の地位の挽回を頼み、あわよくば、子供の出来ないマルグリットが自害でもしてくれれば、次の「子供を生める」妻を娶れば良いと思っていたのかと感じました。

もう私は怒髪天を衝く怒りですよ。レイプされた過去がある悲痛を抱える女性が、そんな事をするなんて。女性に人格が無い事に疑問も感じず哀しみさえ覚えない。恐怖さえ感じました。女性は若く綺麗な間は、持てはやされるので感じないでしょうが、何時の時代も、若い女性は、世の中の最下層なのです。


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10月30日(土)
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