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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「テルアビブ・オン・ファイア」

あ〜、面白かった!世に嘘が嘘を招くシチュエーションコメディは数あれど、まさか緊張みなぎるパレスチナVSイスラエルで、それが観られるとは思いませんでした。クスクス笑いっぱなしの中、両国の人がまるで隣人に思えた秀作でした。監督はサメフ・ゾアビ。
エルサレムに住むパレスチナ青年のサラーム(カイス・ナシェフ)。叔父がプロデューサーのパレスチナの人気ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のヘブライ語の指導と雑用係を勤めています。撮影所に通うためには、面倒な検問所を通らねばならず、無用な言葉「爆発的」を口にしたため、サラームはイスラエルの軍司令官アッシ(ヤニブ・ビトン)の元に連れていかれます。咄嗟に「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本家だと嘘をついてしまったサラームですが、何とアッシの妻がこのドラマの大ファン。妻の熱狂ぶりを苦々しく思っていたアッシは、ドラマの筋に口を挟みます。しかしこれが大当たりで、サラームは本当の脚本家に抜擢されます。しかしこれが難関の数々の始まりでした。
ドラマは1962年が舞台で、パレスチナ人の恋人のいる女性スパイが、イスラエル人に化け、敵の将校を色仕掛けで陥落し、秘密を握って国に渡すと言うモノ。しかし彼女は本当に将校を愛してしまい…と言う禁断の大メロドラマ。とにかくパレスチナ、イスラエルの両方に渡って、老若の淑女に大人気なわけね。
「パレスチナの彼が素敵なの〜(確かにジョージ・クルーニーにちょい似た色男)」とアッシの奥様はうっとり。アッシが「イスラエルの方は?」と聞くと、「はっ?あんな軍人軍人した男はダメよ」と一刀両断。亭主は軍人なんですが(笑)。いや〜、女性って本当に自分に完成に忠実なのよね。どんなに日韓関係が悪化しようが、韓国ドラマを愛する日本のマダム、韓国のメイク用品やファッションを可愛いと愛でる若い子たちを、私は兼々天晴だと思っていましたが、これは面子や沽券はどこ吹く風の、女性の感性が天晴なのよね。女性の正しさは国境を超えるってね。
沽券に拘るアッシは、イスラエルの将校をもっとエレガントで凛々しく描けと言う。しかしこれが大当たりで、視聴率はうなぎ上り。悪役が輝くと、そりゃそうなるわな。しかし、内容をめちゃくちゃにされた脚本家は、怒り心頭「どうしてホロコーストなんか、持ち出すの!」と、イスラエルが見栄え良く見える改変に、取りつく島もありません。うーん、ここに対立の影が見える。そうこうしているうちに、アッシの案とは知らない叔父は、サラームのアイディアだと思い込み、彼を脚本家の一人に抜擢します。嘘から出た真ですね。
脚本は視聴率と新聞の論評次第で、放送しながら改変されて行きます。これは日本でもそうなのでしょう。やれ死なせればいい、ガンにすれば?とか、改変が気に入らない主演女優はへそを曲げちゃうしで、観ていてクスクス。おまけにサラームは、ヒロインのセリフに自分の気持ちを忍ばせて、こっそり愛しい彼女に届けます。この辺はドタバタしながら、すごく微笑ましくて楽しい。
脚本家として腕のないサラームは、仕方なしにアッシの元に日参し、アイディアを貰う羽目に。しかしこれが仇となり、アッシは最終回は、自分の案にしろと譲らない。しかしこの辺りから、たかがドラマの脚本が、両国の現在の状態を色濃く映し始めます。
叔父、脚本家、サラーム。年代は全て違いますが、それぞれが形を変えて、パレスチナの現在の状況に対し、辛く苦い思い出があるのがわかる。アッシだって、検問所に詰めるのは飽き飽きだと、これまた苦々しく思っている。彼の大好物は、パレスチナの料理であるフムスだと言うのも皮肉です。自由に食べる事も出来ないのですね。それなのに、気に入らないとサラームはまるで罪人扱いするアッシ。すぐに銃を向けられる様子など、パレスチナ人を抑圧するイスラエルの傲慢さや暴力が、随所に垣間見られます。
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02月07日(金)
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