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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ラブレス」

観たいと思いつつ、時間が合わず観られずじまいだった監督、アンドレイ・ズビャギンツェフ。まぁほんと、胸くそ悪い夫婦と言うか、出来の悪い両親を、これでもかと描くお話なのですが、ラスト、母親の着るパーカーに浮かぶ「RUSSIA」の文字に、あー、そうだったのかと、合点が行きました。厳しさの中に、監督が自分の国への憂いを、いっぱい込めた作品です。今回ネタバレです。
ロシアの一流企業に勤めるボリス(アレクセイ・ロズィン)と美容院を経営するジェーニャ(マリヤーナ・スビヴァク)は、離婚が決定している夫婦です。目下の問題は、離婚後一人息子のアレクセイを、どちらが引き取るかです。二人とも既に新しいパートナーがいて、アレクセイが邪魔なのです。そんな折、アレクセイが下校途中で、突然失跡してしまいます。
冒頭、凍てつくロシアの風景が映されますが、この家庭はその風景も生易しく感じられる程、冷え冷えしている。凍えるような家庭に投下されるのは、暖かい暖炉の火ではなく、夫婦の壮絶な喧嘩の果ての、怒りの炎だけ。私にはこの光景は見覚えがある。私の育った家庭です。
違うのは、母は私と妹の手を絶対離さなかった事です。アレクセイが、自分を押し付け合う両親を陰で見ながら、一人咽び泣く姿に、泣かない人はいないでしょう。あの時幼かった私は、妹ときつく手を握り合い、やはり声を殺して二人で泣いていました。たった一人、兄弟のいないアレクセイが、どれ程心細く辛いか、私には痛いほどわかり、しばらく涙が止まりませんでした。
アレクセイが失踪した時も、両親とも不倫相手と堂々と(そう!堂々と!)外泊しており、いつ居なくなったのかも、確かにはわからないと言う有様。親として、お粗末過ぎです。
夫は妻に、子供がいらないと言うと、母親の方が家裁に悪く思われるぞと脅かします。今の日本の風潮じゃ、けしからん父親だと言われそうですが、私も夫の意見に同意する。理屈や御託じゃなく、母親は何より子供が大事じゃないのか?私は親とも離れたかったし、夫と離婚を考えた事もあります。「愛する」人と別れたいと思ったのです。
でも子供と別れたいだけは、一度もなかった。何故なら子供が子供である時は、母親が世界で一番好きなのです。例え思春期の入り口の12歳であっても。この母と子の濃密な至福の時は、一心不乱に子育てする母親への、褒美なのです。私が戻りたいとすれば、あの時です。今ならもっと良い母親になれるのに。それなのに、どうして?
従業員に、如何に難産だったかと、まるで自分が被害者のように語るジェーニャ。年かさの従業員に、「みんなそうよ」と、軽くいなされる。愛人と居る時は、まるで童女のように、愛したのはあなただけ、子供も夫も愛した事はないと、むしゃぶりつきます。対する夫には、子供なんか産まなければ良かった、中絶すれば良かった、あなたに利用された、全部あなたのせいよと、食ってかかる。まぁ本当に呆れ果てました。全く持って、ジェーニャが子供なのです。愛人に寝物語に語るふわふわした戯言は、この不倫に酔っているだけで、きっと夫とも同じだったのだろうと思います。
ジェーニャは実母とも折り合いが悪く、常に「愛される事」に飢餓感があるのでしょう。でも私は、愛されるためには、愛する事が先だと思う。
ボリスにしても、まだ妻と離婚もしておらず、問題山積みなのに、愛人は臨月。世間体ばかりを気にし、妻にも愛人にも真剣に向き合っているとは思えない。もちろん、子供にも。この先の不安に涙する、年若いボリスの愛人が哀れです。しかしこの期に及んでも、ボリスとジェーニャは反省もせず、罵り合うだけ。この夫婦は富裕層に当たり、二人とも社会的には成功しているはずなのに、親としてのあまりの幼稚さに、怒りすら沸かず、ただただ情けない。同時に、これは日本でもある風景なのだろうか?と、暗澹たる気持ちになります。
警察に届けるも、他にもっとやる事があるのさと、おざなりの対応で、何とボランティア組織を紹介するには、また唖然。しかし、このボランティアたちの頑張りが、情けなさと絶望する私の感情を救ってくれました。
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04月15日(日)
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