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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「シェイプ・オブ・ウォーター」

祝!アカデミー賞、作品・監督(ギレルモ・デル・トロ)賞受賞作。元々デルトロのファンで、「デビルズ・バック・ボーン」以降の作品は全部観ています。なので今回手放しの祝福と言いたいところですが、めでたさも中くらいと言う感じです。いや嬉しいんですけどね。
1962年の東西冷戦時代のアメリカ。政府の極秘研究所の清掃係として働くイライザ(サリー・ホーキンス)。彼女は耳は聞こえますが、幼児期の傷が元で、口が利けません。毎日ルーティーンの日々を送る彼女ですが、ある日職場にアマゾンの奥地で「神」として崇められていた半漁人の「彼」(ダグ・ジョーンズ)が、運び込まれてきます。興味を惹かれたイライザは、人目を忍んで彼と逢瀬。やがて親密になっていきます。そんな時、サディスティックな研究所の主任でエリート軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)の指示で、彼が解剖されると知り、助け出す決心をします。
この作品で何を一番の楽しみにしていたかと言うと、半漁人をダグ・ジョーンズが演じる事でした。ダグは
「パンズ・ラビリンス」のパン役が一番有名だと思いますが、私が一等好きなのは、「ヘル・ボーイ」シリーズに出てくる、やっぱり半漁人の、エレガントでインテリのエイブが大好きでした。その身のこなしの優雅さと言ったら、人間の男なんか目じゃなかったです(笑)。いっしょに「ヘル・ボーイ」を見に行った三男(当時小学生)に、「なぁなぁ、今度の映画なぁ!」と、ダグの事を熱く語っていると、「その年でそんなんに熱狂できるの、お母さんくらいやで」と笑われましたが(笑)。
今回の「彼」は、精悍にして野蛮、そして若々しくて惚れ惚れするほどピュアな雰囲気を醸し出していました。確かにクリーチャーの造詣でだいぶ左右されますが、身のこなしや体全体の表現力など、誰がやってもあの「彼」になったかと言うと、違うと思う。ダグが今年58歳になる事を考えると、15年近く前の「ヘル・ボーイ」で、大人の男性の優雅さを出していた事を思えば、立派に賞賛に値すると思います。
と、このような私なので、今回のイライザの彼への愛情には、理屈抜きでOKでした。彼女は紹介文では、孤独と記されていますが、決して寂しい女性ではない。同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)や、ゲイの隣人ジャイルズ(リチャード・ジェンキンズ)らの、良き友人もいます。起床から身支度までのルーティーン作業の中の、イライザの自慰場面の挿入は、恋人のいない孤独ではなく、私はそれで性的処理を行っていると取りました。彼女は、外見ではない、口の利けない同士の逢瀬の中で、しっかりお互いの内面を見つめ、愛を育んでいたと思います。
それが証拠に、イライザに性的対象として興味を抱くストリックランドには、強烈に拒否するのです。現実での異種人種間の恋愛を、描いていると思いました。
世の中からも家庭でも虐げられる黒人女性ゼルダ、ゲイである事をひた隠しにしなければならないジャイルズ(アルコール依存は、ここから来ていると思う)など、当時の社会情勢ではイライザを含め、弱者中の弱者が結束して、「どこの名うてのスパイが集まってやったのか?」と、言わしめる奪還劇は、痛快でした。そして手助けは誰がしたのか?アメリカ映画で、こんなのを見たのは初めての気がする。本来の職業的矜持でしょうか?ここも現代に見習いたい事です。
サリー・ホーキンスが超絶可憐。年齢的には中年の役どころでしょうが、少女のような愛らしさです。その中に、貧しくハンデを追いながらも、自立して暮らす凛とした風情に、私は心惹かれました。ストリックランドに「美人ではないが、忘れられない」と言われるのも納得です。イライザは好んで「孤独」な環境に身を置いていた人だと、私は思います。あの奪還劇は、眠っていた彼女の情熱を、「彼」が呼び起こしたのだと思います。
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03月11日(日)
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