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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「怪物はささやく」

鑑賞後、胸がいっぱいになり、この作品は是非小中学生の子達に観て欲しいと思っていたら、原作は児童文学でした。なるほどなぁ。遠い遠い昔の、自分が子供であった頃から現在まで、あらゆる感情が引き出されて、鑑賞後は魂が浄化されたような心地になるダークファンタジーです。監督はJ・A・バナヨ。
墓地の見える家に、母リジー(フェリシティ・ジョーンズ)と二人暮らしの13歳のコナー(ルイス・マクドゥーガル)。母は病で臥せっている上、学校ではいじめにも遭っています。病状が捗々しくない母は、コナーの今後を思案します。コナーは別れた父(トビー・ケベル)と暮らしたいのですが、父はコナーを愛するも、今は別の家庭があるからダメと言う。自分とはそりの合わない祖母(シガニー・ウィーバー)が引き取りたいと言うので、コナーには色々憂鬱な日々です。そんなコナーは、夜中の12時7分に、よく夢を見ます。その夢には怪物(声リーアム・ニーソン)が出てきて、三つのお話が終わった後、コナーに真実のお話をしろと言います。
怪物のお話のアニメーションが素敵です。影絵に色をつけたような作りで、展開ごとに水が流れる如くの技法で、とても流麗。内容は、世の中の矛盾を突いたお話でした。皆々様々な顔を持ち、人間は白黒だけで区別はつけられないと言う内容。子供には少々難しいお話ですが、これがコナーの日常にリンクし、心を内省する手立てになります。
幼い時分、親が死んだらどうしよう?と思った事が、誰でもあるはず。私は父もいたし、母方の祖母や叔母も回りにたくさんいたのに、母は皆が私と妹の敵で、あなたたちをお母さんが守っているのよと、呪いのように言い聞かされていました。母が居なくなると、自分には絶望しか残らないと思い込んでいたので、コナーの苦痛は本当によく理解出来ました。
自分を気遣う父に対して、僕を愛しているなら、何故一緒に住めないの?それは愛していないからだと、断罪するコナー。パパは弱い人なのです。孫に愛情があるのに、厳格に対応するお祖母ちゃん。だからコナーは愛情が感じられない。多分、祖母は娘であるリジーとも、このような関係だったと思います。靄がかかって、コナーには父や祖母の本当の姿は見えてこない。
上手くいかない孫との関係に悩み、幼い頃のコナーのビデオを観て、心を落ち着かせようとする祖母。この光景を見たコナーには、怪物のお話を思い出したでしょう。
子供の頃、大人の隠し事には気がついているのに、知らんふりをしていた事はないでしょうか?そして自分も親に対して隠し事があったはず。なのに、自分が親になったら、その事はさっぱり忘れて、子供の事は何でも知っていると思い込む。親とは傲慢な生き物です。子供の成長過程で、その傲慢さを突きつけられ、親も成長していくのです。しかしリジーには時間がない。
毎夜の夢は、私はコナーの想念だと思います。自分の心と向き合う事は、大人でも辛く、勇気が必要です。だから、心の底に蓋をする。その蓋を開けたのは、母の必死の祈りであったのだと示すラスト。彼女は自分の死を、息子に背負わせたくなかったのだと思います。そして、自分の亡き父にも手伝ってもらう。二回出てきた写真に映る人物を見て、沿う思いました。病の床に臥した娘を心配したのでしょう。見守るのは、現世の人間だけでは、ないはず。
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06月21日(水)
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