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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」


映画ファンなら名の知れた脚本家のダルトン・トランボ。その名前は、ハリウッドの黒歴史である赤狩りと共に、記憶されているはず。個人的には、ざっくりとしか知らなかった赤狩りの顛末を、この作品でしっかり理解しました。ハリウッドの歴史ものとして、ホームドラマとして、そして反骨心に満ちた生涯を送った男の不屈のお話として、多角的に観る事が出来る作品。重厚な作りながら、洒脱なユーモアにも溢れ、私的には傑作と言っていい作品だと思います。監督はジェイ・ローチ。今回はトランボに敬意を表して、脚本のジョン・マクマナラの名前も記したいと思います。

売れっ子脚本家のダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)。良妻賢母の妻クレオ(ダイアン・レイン)と三人の子にも恵まれ、順風満帆の日々です。トランボは共産主義思想の持ち主でしたが、米ソ冷戦の時代の赤狩りはハリウッドにも矛先を向けられます。公聴会に呼ばれた彼を含む10人の映画人は、公聴会での証言を拒んだために議会侮辱罪で収監。一年の刑に処されます。出所後はブラックリストに名の載った彼に仕事はなく、妻子を養うため、トランボは偽名で脚本を書きまくります。

トランボ及び仲間たちは、共産思想は啓蒙していますが、国の転覆を図ったり、ソ連のスパイなどではありません。有体に言えば「思想犯」。何の罪も冒してはいないのに、侮辱罪でのムショ行きは、お灸をすえる意味と、これ以上共産思想に民が被れないためでしょう。それだけ当時の映画とは、今以上人々に影響を与えるものだったのですね。

屈辱的な身体検査、労役を経ても、どっこいトランボは元気いっぱい。一向にへこたれない。殺人犯の黒人と組まされるも、彼から自分の価値観が間違っていたことも教えて貰います。この黒人は、とある人物が公聴会でトランボたちを裏切り、寝返るのを見て、「ムショなら処刑だと」と、苦々しく言います。彼はアカが大嫌い。でもそれはそれ、これはこれ。「尊重」の意味を、当時のお偉いさんたちより、よっぽど知っているのです。

出所後、完全にハリウッドから干されたトランボは、「ローマの休日」のように、友人の名前で書くのではなく、全くの偽名でB級専門のキングスブラザーズに脚本を売り込みます。書いて書いて書きまくる日々。それも複数。電話を何台も用意し、口述係、清書係、郵便係と、家族一丸となってのファミリー・ビジネス。寝る暇さえなく、浴室にタイプを持ち込み、アンフェタミン(覚醒剤)を飲みながらの執筆です。時間の全てをトランボに捧げる事に、家族は疲弊し怒ります。何故そんなに書くのか?トランボは「家族の奴隷だ」(経済的な意味)と言い、家族はトランボの奴隷だと思っている。私は両方ともトランボの「才能の奴隷」だと思いました。

名乗る事も出来ず、書く脚本は低俗と言われるB級映画専門。それも格安で。しかしそれでも突かれたように書く事で、自分の自意識を保っているように思えました。夫と家族をそこから救ったのは、賢妻のクレオ。話し合いを早々に切り上げようとする夫に、「これは議論じゃないわ。ケンカよ」。往年の和田誠の著作「お楽しみはこれからだ」だったら、絶対取り上げたセリフですよ。セリフとは、どの場面で誰が言ったか、それで言霊が全然違うものです。

長女ニコラ(エル・ファニング)との和解する場面が麗しい。ニコラは子供の中で一番父親似。高校生ながら黒人解放運動に携わっています。「パパを嫌いになりたくない」。妻子はお金のため、不承不承トランボに付き合っていたのではありません。家族もまた、トランボと共に世間を相手に戦っていたのです。それをやっと理解するトランボ。


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07月25日(月)
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