ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927709hit]
■「共喰い」

えーと、好きな作品です。が!大小様々に文句言いたい箇所がいっぱい!何故それでも好きなのか、自分でも混乱しているので、今回ネタバレで書きながら検証していきたいと思います。監督は青山真治。
昭和63年の下関に住む17歳の高校生遠馬(菅田将輝)。父・円(光石研)と若い愛人琴子(篠原友希子)との三人暮らし。母仁子(田中裕子)は、セックスの時女を殴る夫の性癖を嫌い、川を隔てた家に一人住み、魚屋を営んでいます。現在の相手である琴子も、時々顔に痣を作っています。遠馬には深い仲の恋人千種(木下美咲)がおり、父と同じ事をするようになったら、どうしようという怯えが、いつも彼を支配していました。
特異な環境に育ちながら、遠馬はそれなりに真面目な高校生のようです。しかし神社の物置でセックスする二人にびっくり。盛のついた感じは、この年代らしいですが、千種の造形に私は疑問がいっぱい。この当時の夏は、今のような亜熱帯のような暑さではなく、高校生位の女子が日傘をするのは稀でした。原作もそうだったかな?
お嬢さんっぽさを醸し出す千種ですが、服を脱ぐと白いお臍まである木綿のショーツを履いている。う〜ん、ちょっと野暮った過ぎないか?この時代女子高生で、セックスまで行く彼氏のいる子は、少数派だったはず。そんな「発展家」の女子が履く下着じゃないな。勝負下着の概念も既にあったはず。結構女性の下着姿は語るんですよ。あの場面では清楚な刺繍でも施した、お臍より下のショーツだと思います。
何度体を重ねても、いつまでも痛がる千種に自信喪失気味の遠馬。しかし妙に達観している千種。そして赤裸々な言葉も平気で口にします。お互い初めてな訳でしょう?この千種の貫禄は、いったい何なんだ。普通は私の体はおかしいのではないか?と、悶々とするはず。あんな卑猥な表現も普通しないわ。最後までわからない子でした。
「なんで俺を親父のところに置いてきたのか?」と問う息子に、仁子は「あの男の息子やから」と答えます。同じ血が流れているからと。しかしそれは本心ではないでしょう。円が琴子が妊娠中に自分から逃げた時、「俺の子供を持ち逃げしやがった!」と憤っています。女性遍歴を繰り返しながら、遠馬はずっと手元に置いていたはずの父。彼なりに父親としての強い愛情を持っており、遠馬を手放さなかったのでしょう。仁子の後述で、息子は父親に殴られた事はないとわかります。だから仁子は籍は抜かず、少し離れたところから、息子を見守るために、あそこに暮らしていたのでしょう。
最初は不可思議で情の薄い女性に見えた仁子が、物語の中で彼女自身の言葉から、段々輪郭を表す手法は良かったです。戦争で失った左手を、婚約者の母からからかわれ、殴って破談にしてしまった程気が強かった仁子が、何故殴られても、円と一緒にいたのか?手がない事で見下して殴ったのではないと、彼女の口から聞いた時、理解出来ました。片手の為あれこれ差別され、手っ取り早く水商売にも行けなかったはず。彼女が戦後に舐めた辛酸までもが、忍ばれました。
それは琴子とて同じ事でしょう。「私の体が良いと言うから」と、バカ丸出しのセリフを言う琴子ですが、遠馬の誕生日の心尽くし等見ていると、女性として温かく行き届いた人だとわかります。多分身寄りもなく、教育も受けず、早くから水商売に出ているのでしょう。男遍歴もそれなりにあったはずです。円の必死の口説きに、真心を見たのかも知れません。父親の悪口を言う遠馬に、「お父さんをそんな風に思うのは、不幸な事」と諭す琴子。泥水の中でもがくような生活なのに、人としての心映えの美しさを見失わない彼女。人って職業や学歴じゃないなと、痛感します。私はこの作品の中で、琴子が一番好きです。
[5]続きを読む
09月19日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る