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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「17歳のカルテ」


もう公開してから13年になるんですね。ずっと見逃していたこの作品、やっと昨日ケーブルのオンデマインドで観ました。思春期の女子たちが集まる精神病院が舞台なのと、当時アンジーがオスカーを取った事しか認識がありませんでしたが、境界性人格障害のヒロインのお話だったのですね。観ていてむせび泣いてしまう場面が続出。人格障害については、個人的な思いもあり、実に感慨深い鑑賞でした。秀逸なガールズムービーでもあります。監督はジェームズ・マンゴールド。舞台は1967年のアメリカの精神病院。旧作につき荒筋なし、ネタバレです。

自身も境界性人格障害で精神科に入院歴のあるウィノナ・ライダーが、プロデューサーも兼ねて、原作者のスザンナ・ケイスンを演じています。同じく人格障害ですが、もっと獰猛な少女リサがアンジェリーナ・ジョリー。他に虚言癖のクレア・デュバル。顔にやけどの引きつりのあり、精神的な成長を停めてしまったエリザベス・モス。摂食障害のアンジェラ・ベティス。同じく摂食障害ですが、近親相姦の秘密も抱えている少女に、亡くなったブリタニー・マーフィー。一時代を築いたり、現在中堅女優として活躍したりと、錚そうたる面々です。

厳しい監視の目をくぐり抜け、彼女たちが院内を冒険する様子が愛らしい。戯れに寝た相手の妻から詰られるウィノナを、少女たち全員で守る姿も微笑ましい。入院ではなく、女子高の様です。誰にも理解されず、今まで居場所がなかったのでしょう、ここは彼女たちの安息の場なのだと感じます。この笑顔、どこかで観たなぁと思い起こすと、「プレシャス」でした。この映画も、恵まれぬ環境の中、学校に通えなかった少女たちが通うフリースクールで、彼女たちは初めて年相応の笑顔を見せます。環境や傷ついた心を共有する人がいる大切さを、感じずにはいられません。

しかし、これはステップなんですね。一見絆を結んでいるような彼女たちも、実はガラス玉のように壊れやすい関係です。次々医療者側の気持ちを裏切るような行動に出る彼女たち。私も医療従事者として、遠巻きに見てきた風景です。もちろん彼女たちは、裏切ってなどいない。成長や回復を望むの、こちらの勝手な思い込みです。このもどかしさを乗り越えて、彼女たちを見守る看護師をウーピー・ゴールドバーグが演じています。厳しくてちょっと怖く、何事にも動じないウーピー。彼女たちを信じるでもなく突き放すでもなく、常に温かさだけは失わず接せられたのは、彼女も黒人として、人生の辛苦を舐めてきたからだと思いました。

個人的な思いとは、私の亡くなった母が人格障害だった事です。母は精神科に通院歴はなく確定ではありませんが、私が精神科に勤めるようになり、気づいた事です。近頃流行りの「母が重たい」と、多分根本的には違うと思う母娘関係だと思われます。アンジー演じるリサを観ていて、まるで母を観ているようでした。華やかでカリスマ性があり、リーダーシップを取る。自分の手の内にいる時は守るけれど、飛び出そうとすると決して許さず、相手を傷つけまくる。攻撃的で常に自分に注目を集めたい。リサはまだまだ綺麗に描いている方です。

私の母も睡眠剤や安定剤、鎮痛剤が手放せない。少しでも口応えすると、半狂乱になる。それでも不仲の両親、問題のある家庭に育った私が、我慢できずに、今思えば思春期の辛さを母にぶつけただけでした。そうするとお決まりの自傷。私ではありません。母がです。ガス管を口に加える、舌を噛み血だらけになる、窓ガラスをバッドで叩き割る。そうすると、私が「お母ちゃんごめん!私が悪かったから!」と、号泣して謝るからです。女が出来た父を責め立て、布団に火を付けた事もあります。そして繰り返される両親の壮絶な喧嘩と、腹違いの兄たちや、母の親兄弟とのドロドロの確執。


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08月09日(金)
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