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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「天使の分け前」
う〜ん・・・。実は感想を書く前に、親愛なる映画友達各位と少しお話したのでね、少しは怒りは収まりましたが、やはり何度考えても、私はこの作品は好きじゃないです。今回はネタバレです。監督はケン・ローチ。

スコットランドのグラスゴー。厳しい家庭環境に育ち、自身も暴力l的で不良の烙印を押されているロビー(ポール・ブラニガン)。恋人レオニーの妊娠で父親になる事を契機に、真面目な人生を送ろうと決意しています。不良同士の喧嘩が原因で、裁判所から社会奉仕を命じられたロビーは、そこで同じく社会奉仕を命じられたアルバート、ライノ、モーと、彼らを指導する中年男性ハリー(ジョン・ヘンショウ)と出会います。無事レオニーは男子を出産。しかし職もないロビーとの結婚を、レオニーの父親は許しません。そんな憂鬱な日々を送っているロビーたちに、ハリーは気晴らしにウィスキーの蒸留所見学に連れて行ってくれます。

鑑賞前は、ハリーの導きで洋酒への才能を発見したロビーが、真面目に更正する姿を描くのかと思っていました、それが窃盗で大金を掴んで新たな人生を歩もうとするなんて・・・。

前半、底辺に住む彼らが、何故裁判所行きになったのか、ユーモラスながら、現実の厳しさも滲ませて描いていて、よく理解出来ました。そしてロビーの前科。何故彼が刑務所へ入った事があるのかも語られます。それは悲惨な事件で、重症を負った大学生は、その後遺症のため大学を中退。恋人ととも別れ、片目は失明。現在引きこもり状態です。当時ロビーは不良真っ只中でヘロインも吸引直後。全く弁解の余地のない出来事です。相手の母親の当然の罵倒を、反論せず聴き続けるロビー。

「これが自分の息子だったら、相手を許さないだろう」と語るロビー。もう決して暴力は振るわないと誓います。刑期を終え、金銭的に償う事も出来ないロビーですから、それしか被害者に対する誠意の見せ方は当面思い当たらないでしょう。でもこの決意の描き方が中途半端なのが気になるのです。だったら、ずっとロビーを追い掛け回す不良に、殴られて殴られて、半殺しに合っても手を出さないシーンが必要なんじゃないかな?実際には、尾行する不良の手下に手を出すのを我慢しただけ。殴られて我慢するのと、殴るのを我慢するのは、同じ暴力の我慢でも全然意味が違うと思う。

ロビーのした事は理不尽な暴力です。更生したいロビーを、いつまでも追い掛け回す不良に殴られるのはも理不尽な事です。ロビーも同じ理不尽な目にあって、過去を精算してこそ、私も納得し、ロビーを受け入れる気になれるのにと思いました。

レオニーの父親はナイトクラブの経営で稼いでいます。これは彼も裏の人生に精通していて、元はロビーたちと同じ場所に生息していた人であると想像出来ます。たくさんのゴロツキの終焉を観ているはずで、自分のように抜け出すのは困難だとわかっているのでしょう。やり方は共感しかねますが、親心はわかるのです。ある意味レオニー以上に、ロビーを知っているのかもしれません。

蒸留所での場面は、皆楽しそうで、普通の見学者と同じです。この作品のテーマは、一度過ちを犯した者が、もう一度普通の人生を望んで良いのか?です。もちろん、私もイエスです。その難しさを知っているから、心優しいハリーは、束の間でも彼らに人生の楽しみ方の一つを分け与えたいと思ったのでしょう。イギリスは階級社会で立身出世は難しく、現在失業者は100万人だとか。数々のイギリスの底辺を描く作品を観ているので、朧ろげながら、抜け出すことの厳しさは知っているつもりです。

それでも、その方法が窃盗だなんて、やっぱり私は嫌です。事は幻の樽が発見され、オークションで100万ポンド(1億4千万くらい?)は下らない値段で落札されるだろうと聞いた事から。その樽からウィスキーを掠め取る計画です。「天使の分け前」とは、毎年樽から2%蒸溜してしまうことから、その2%を「天使の分け前」と言うのだそう。とても素敵なネーミングです。


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04月21日(日)
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