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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フライト」

予告編と全然違う作品。予告編では、デンゼル扮する機長は、フライト前に飲酒していたのかどうか、そこがキーポイントみたいに描かれています。それがあなた、冒頭フライト直前だと言うのに、同僚CAのお姉ちゃんと事後の後だは、飲酒はおろかコカインまで吸引!しかし予想は外れたものの、以降お話はアルコール依存症男性の人間ドラマに移っていきます。身近でアルコール依存の患者さんを観る機会も多いので、とても興味深く且つ共感しながら観られました。監督は久々の実写のロバート・ゼメキス。
アトランタ行きの旅客機が突如制御不能に陥り、機内は大パニック。しかし機長のウィトカーの機転と抜群の操縦テクニックで、飛行機は別の場所に不時着。犠牲者は最小限に留まります。自らも傷を負ったウィトカーをは、多数の乗客や乗組員と共に入院。組合の幹部で友人のチャーリー(ブルース・グリーンウッド)が、ねぎらいの見舞いにやってきて、簡単な調査があると告げます。しかし全米のヒーローとなるはずだったウィトカーは、血液検査でアルコールが検知。それがバレれば、彼は身の破滅で、ヒーローが一転重罪人です。事態を重く見た会社は、辣腕弁護士のラング(ドン・チードル)をウィトカーに引き合わせます。
上に書いた以外でも、フライトの最中にもオレンジジュースにアルコールを混ぜて飲酒する様子も出てきて、ウィトカーはかなり重度のアルコール依存症だと印象づけます。私がびっくりしたのは、アルコールの酔い醒ましにコカインを吸引していた事!もうびっくりでした。この描写は後にも出てきます。
旅客機事故は機体に問題があり、ウィトカーの責任ではありません。しかしお酒を飲んで操縦機を握っていた事がバレれば、彼は終身刑かもしれないのです。これは私の推測ですが、チーフパーサーのマーガレットの言葉、酔っ払ったウィトカーを正気に戻すためにチャーリーが取った行動を見ると、彼らは以前から飲酒しながらウィトカーがフライトしていたのを、知っていたと感じるのです。そして初めて彼と仕事する副操縦士。「あの時酒の匂いがした」と言いながら、咎めない。今まで仕事に支障がなかったから、周囲は見て見ぬ振りをしてきたのか?これは恐ろしい事です。アメリカ映画を観ていると、飲酒運転がすごく多いのが、以前から気になっていました。事故しなければ良い、そういう社会に対して、問題を投げかけているのかと感じました。
そしてアルコールが検出されていることを、簡単に揉み消せるのかと、これもびっくり。やっぱりアメリカって問題多いなと痛感します。これは事故は機体の問題であると言う前提があるのでしょう。そう言う意味では不承不承納得出来るので、脚本の勝ちかな?
真実から逃げ回るウィトカー。マーガレットや副操縦士に嘘の証言を頼みに行くという惨めさ。それでもお酒は止められません。アルコール依存症は病気なので、専門的な治療が必要なのは言うまでもありませんが、それ以前に「治したい」と言う意志が必要です。彼にはその気持ちがありません。妻子に捨てられても「俺は家族より酒を選んだのさ」と豪語します。嘘に嘘を重ね、逃げて逃げて安住する場所がなくなって、誰も彼に寄り付かなくなっても、それでもお酒を飲み続ける彼。見ていて本当に辛くて嫌になってきます。
彼がどうしてこんな重度の依存症になったのか、作品では描かれません。女性の依存症患者はキッチンドリンカーと称されますが、それは料理酒が始まりの事が多いから。お酒は麻薬などではなく、上手に付き合えば百楽の長と言われたり、人生の楽しみの一つです。最初は些細な事から始まり、やがて取り返しのつかない事になるのでしょう。それは誰しも待ち受けている落とし穴だと言いたいが為、あえて依存症の理由は描かなかったのかと感じました。並行して描かれる依存症女性ニコール(ケリー・ライリー)など、志を持って都会に出てきたのに、最愛の母の死の辛さを乗り越えられず、また薬に逆戻り。誰しもが依存症に陥る隙があると示唆しているかと思いました。
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03月10日(日)
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