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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ふがいない僕は空を見た」



「あんたは誰にも謝らなくていいよ。生きててね」と語る原田美枝子演じる主人公卓巳(永山絢斗)の母の台詞を聞いたとき、あちこち綻びのあるこの作品に、私が何故惹かれたのか腑に落ちました。他にも二人母親が出てきて、ヒロイン里美(田畑智子)の亡くなった母も含めると、若い彼らが何故あのような行動に出たのか、理解出来る気がしました。監督はタナダユキ。

高校二年の卓巳の家は、母が営む助産院で生計を立てています。卓巳は友人に誘われたコミケであんずと名乗るコスプレ姿の主婦・里美と知り合います。彼女の誘いから情事を重ねる間柄となります。同じ頃、卓巳の親友良太(窪田正孝)は、母親が家出し、認知症の祖母を抱えコンビニでアルバイトしながら貧困に喘いでいました。

冒頭からコスプレ姿の二人のセックスシーンが映り、全然予備知識がなかったので、ちょっとびっくり(18禁と言うのも後で知る)。しかしいつもと違う、笑顔が少なく年齢より幼い憂いのある脆い里美を、田畑智子は好演していました。里美はサラリーマンの夫とふたり暮らしで、不妊治療をしており、姑(銀粉蝶)からはその事できつく当たられています。

この姑の様子が一種ホラー。最初は穏やかに、段々真綿で首を絞めるように、そして恫喝。銀粉蝶がお芝居上手なので、孫に妄執する初老の女の怖さだけではなく、哀しみも感じさせるのです。その思いは理解出来るものの、子供夫婦の事に口出しする浅ましさは、私は嫌いです。このお母さん、夫存命の時から、母親以外の自分はなかったんでしょうね。子供が巣立つ少し前から、女は母親以外の自分も準備しなくちゃ。

夫は無神経で気持ち悪いし、姑はこれだし、そりゃ浮気もしたくなるわなと里美の気持ちは同情できます。しかし専業主婦でコスプレ姿でコミケに行く時間があり、セックスの度(多分)に卓巳にお金を渡す様子は、これはダメでしょ?夫の稼いだ金で浮気なんかするな。里美はアニメの主人公に未だ恋心冷めず女性です。自分のヒーローに似た卓巳との情事は現実逃避であり、お金という媒介を通すことで、かろうじて自分を納得させているのでしょう。幼さと年齢相応の浅はかな「言い訳」。きっと離婚したかったのでしょうけど、母は亡く帰る家がない。それでも突っ走る強さは、彼女にはなかったのでしょう。

ただ何故この夫と結婚したか?虐められていたと語るだけで、その経緯にふれていないので、全面的に彼女に同情出来ません。「ヤリマン」など悪口がかかれているノートを未だ所持しているのも不思議。そのノートには自分が書いたヒーローの似顔絵が書かれていて、捨てるに忍びなかったのかも知れませんが、それなら悪口の部分を破けば済む事。何故「ヤリマン」と呼ばれるようになったのか、そこも描かれないので、せっかく田畑智子が里美を繊細に熱演しているのに、これではただのあばずれのように思えてしまいます。

視点を変えて、何度も繰り返す同じシーンも、わかりづらいだけで上手く機能していません。これは時空を弄らず、そのまま撮った方が良かったと思います。卓巳の心情は描き方が浅いのではなく、永山絢斗の演技が一本調子なので、わかりづらいだけだと思いました。

ある事で卓巳が不登校になってから、主体が良太に移って行きます。監督の思い入れが強いのか、窪田正孝の好演とが相まって、こちらの方が見応えがあります。彼の現状を知る卓巳の母は、お弁当を渡すも良太は廃棄。施しが嫌なのだと思っていましたが、彼が団地の同級生純子と、ある不可思議な行動を取った時、あれは卓巳に対する嫉妬なのだと思いました。同じように父親がいない自分たち。母親に甘えて塞ぎ込む場所のある卓巳対して、高校生の自分から、金をむしる取るような母親しかいない自分。自分を取り巻く劣悪な環境に対して、怒りの矛先を「いい気な親友」(に見えたと思う)にぶつけた良太の心情は、わからなくもないのです。


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11月23日(金)
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