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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ファミリー・ツリー」



大好きなアレクサンダー・ペインの七年ぶりの新作。舞台のハワイはアメリカ人にとっても憧れのパラダイスみたいですか、どうも都会的イメージのジョージ・クルーニーには似合わないなぁと思ったら、その似合わないのがミソ。昏睡状態の妻の浮気に怒り、扱い方のわからぬ娘たちに困惑しと、とっても情けないのです。しかしその情けなさが、とっても誠実で味わい深く感じる作品です。

ハワイ在住の弁護士のマット(ジョージ・クルーニー)。ある日海での事故で、家庭を任せきりにしていた妻が昏睡状態に陥り、生活が根底から覆される羽目に。折しも先祖代々継承してきた広大な土地の売却の件にも頭を悩ましている最中でした。日々悩まされているマットに、長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)は「ママは浮気をしていた」と告げます。

マットの独白から、彼が仕事人間で家庭は妻に任せきり。趣味もなく娘たちとの交流も薄く、融通も効かない、「面白くない人」であるのがわかります。でもこれって、一般的には最大公約数的な夫です。

対する妻は、事故直前にジェットスキーに興じている笑顔以外、ずっと物言わぬままベッドの上。それなのに、妻の父、娘たち、友人たちの口から、鮮やかに妻の姿が浮かび上がる。マットとの出会いは妻からモーションをかけて、彼女の美貌にマットはすぐ陥落。結婚式で裸になってしまうような豪快な女性だったのに、結婚後は夫の仕事を支え一生懸命貯金し、財産はあるのに、夫は使わせてくれない。子育ても妻に任せきりの夫に代わり、難しい年頃の長女とも格闘。社交的で友人も多く、地域の人々からも愛されていた妻。きっと本来の自分を押し殺して、良き妻・母であるよう一生懸命だったのでしょう。それもこれも夫(そして子供)を愛していたからだと思います。

なのに肝心のマットの口からは、妻がどういう人か皆目わからない。マットと来たら、いつ妻と話したかも思い出せないほど、家庭は放ったらかし。夫は、尽くしても尽くしても当たり前。男って言うのはね、お金入れて真面目に仕事してりゃ、それで済むと思ってる人が多いのよ。趣味に打ち込んでも満足しきれなかったのは、妻が一番欲していたのは、夫の愛だったからだと思います。逆説的ですけど、夫を愛していたからこそ、彼女は浮気したんじゃないでしょうか?

歌手の高石友也はマラソンランナーでもありますが、仕事の時京都駅まで8キロの道程を練習がてらランニングしていたそうです。それが奥さんが亡くなって出来なくなった。何故ならいつもタクシーで荷物を持って、後から奥さんが追いかけてくれていたから。そこで始めて、自分がランニング出来たのは奥さんのおかげだったと思い知ったと、しみじみ記述されていました。

この思いに、本当に「夫」と言うのが表されていると思うんですね。仕事しながらマラソンランナーとして結果を出す自分はすごくて(いや高石氏は仰ってません。一般論ですよ)、それを支える妻は当然の事をしているだけ。思うに自分の事で、いっぱいいっぱいなのでしょう。でも妻だって本当はいっぱいいっぱいなんです。感謝してくれなくて良いけど、妻としては夫にその事を気付いて欲しいのです。

マットは妻が治ったら、世界一周しよう、仕事も辞めよう、もっと大事にしていっぱい話そう等の懸命の決意。男は妻がこうならなきゃわからんのは、洋の東西を問わない訳ね。これは許していいのか悪いのか?願わくば元気な時に気づいてよ。

長女から妻の浮気を聞かされたマットが、一目散で友人宅へ駆けつける姿が秀逸。自転車だって車だってあるのに、動転していたら、あんなもんですよね。でもこの姿は好感が持てました。あぁそうなの、なんて鷹揚に構えられたら、妻としてたまったもんじゃないわ。あのみっともないマットの姿は、彼も妻を愛していた自分を、忘れていただけだと思いました。


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05月24日(木)
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