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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「テイク・シェルター」



二時間、時々涙ぐみながら興味深く観ました。悪夢は予知なのか?それとも精神病なのか?サイコ調のミステリーは、やがては夫婦のお話へとシフトして行き、辛い主人公の心にしっかり寄り添いながら作ってあり、とても感銘を受けました。唯一ラストがイマイチです。思うところあって、今回はネタバレ気味です。監督はジェフ・ニコルズ。

工事現場で働くカーティス(マイケル・シャノン)。家庭的で優しい妻サマンサ(ジェシカ・チャスティン)と一人娘ハンナ(トーヴァ・スチュワート)と三人暮らし。ハンナは聾唖ですが、その事には捕らわれず、幸せな家庭を築いています。しかしここ数日マイケルを悩ませているのは、悪夢。大災害が来る夢を毎晩見るのです。焦躁に駆られたカーティスは、自宅の庭にシェルターを作ろうとします。やがて彼の行動は常軌を逸し、周囲を巻き込んで行きます。

最初の方は、カーティス一家の日常を時間を割いて映します。これは意図的のはず。夫は土木工事に従事。会社もきちんとしているようです。サマンサは日用品や手芸品を手作りして、フリーマーケットで販売。洋裁の内職もしており、これはハンデのある娘との時間を作りたくて、外に働きに出ず、この選択をしたと思いました。贅沢はせず、しかし心豊かに暮らしながら家のローンもきちんと払う。そして娘には愛情をいっぱい注ぎながら甘やかさず育てる。この真面目で堅実な暮らしぶりは清々しく、少々感動さえします。この感情が後々の気持ちを一層切なくさせます。

この作品には、一般的に理解され難い精神疾患を持つ人の苦悩が、とてもわかり易く描かれています。毎日観る天変地異のような悪夢。不吉な幻覚や幻聴。それは予知なのか?悪夢はその時々にまるで現実のような物を見せます。その事に強いこだわりを持ち始めるカーティスは、シェルター作りに躍起になると言う、理解しがたい行動を取り始めます。

統合失調症とは、読んで字の如く言葉や思考に統合性が無いことです。しかし順を追ってカーティスの行動を観ると、全部辻褄が合う。他人から観れば不可解でも、本人には統合性のある事なのです。病に罹り、こうやって友人を遠ざけ、借金をして、家庭も職も失っていくのだと思うと、やり切れない気持ちになります。カーティスほど自他共に堅実に生きていると思われている人でも、あっと言う間なのです。

妄執に駆られる自分は精神病ではないか?何故カーティスが悩むかと言うと、彼の母親が統合失調症で30代から病院暮らしなのです。ここでも親族に精神病患者を持つ人は、自分もいつか発症するかもしれないと、心の底で常に怯えて暮らしているのだと、辛くなりました。兄が母の面会に行かないのは、母の存在を封印する事によって、その苦しみから逃れたいと思っているのでしょう。

カーティスは自分を疑い、医師に相談、薬をもらったり精神科カウンセラーに相談にも通っています。所謂「病識がある」人です。そんな人でもこんな強引な行動に出るのは理由があって、母に突然置き去りにされたカーティスは、それが原体験となり、家族は何があっても自分が守ろうと決心しているのです。この哀しい設定は、一層彼の行動に理解を与えるものです。

自分の本心を打ち明けられず、回りくどい言い訳に終始していた彼が、やっとの思いで妻に打ち明けるも、その直後の出来事に感情を爆発させます。傍から観れば不気味で怖い人です。それも当然です。両方の感情が理解出来るだけに、本当に哀しい気持ちになりました。


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05月11日(金)
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