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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「最高の人生をあなたと」

「おとなのけんか」が結婚15年未満くらいの夫婦なら、こちらは結婚30年と倍の夫婦生活を送ったカップルが主人公です。老いに向かうことに対してのスタンスの違いが、あわや熟年離婚にまで発展しそうになるとは、何年夫婦やってても、男女の仲は面白くて厄介なようで。
コミカルに二人のファインティングを見せながら、悠然とした母や、戸惑う子供たちの様子も情感豊かに描けていて、私はそこに魅せられました。監督はジュリー・カヴラス。老いに向かう夫婦を描くラブコメです。
結婚30年を迎える建築家のアダム(ウィリアム・ハート)とメアリー(イザベラ・ロッセリーニ)夫妻。三人の子供たちは皆独立、隣に住むメアリーの母も元気でいてくれて、介護は無用。これから新たな生活が始まるはずでしたが、忍び寄る老いに向かっての準備まっしぐらに妻に対し、まだまだ現役にこだわる夫は対立。しだいに夫婦仲が険悪になっていきます。
冒頭仕事で賞を受け、スピーチするアダムに対して、「長いスピーチね。私の人生なんか5行で終わるのに」と言うメアリー。これはね、違いますよ。似たような人生を歩んでも、5行だと思うか、400字詰め原稿用紙5枚の人生だったと思うか、それは自分次第。現状に不満がありありなのが、端的にわかるセリフです。
時々の記憶喪失に体力不足、異性には無視されるどころか、バスでは席を譲られる始末。ボランティアをしよと思えば、熟年者はいいように使われる現状に憤慨。自分の老いを認めるしかない状況で、抗わずに長ーい老後に向かって、着々と準備を始めるメアリー。家庭を守り子供を育て、夫へは内助の功、やっと子育てを終えたと思ったら、今度は子供の結婚だ離婚だと、母親として世話を焼くことはいっぱいだったでしょう。あれもこれも済んでから、と思っているうちに、老いへ向かう前の「中年期の青春」を得るタイミングを逃してしまったのでしょう。善良な主婦にありがちな、思い込んだら命懸け、周りを見渡せない猪突猛進ぶりに、彼女が如何に一生懸命家庭を守ったのかが、わかります。
対する夫の方は、現役バリバリの働き盛り。しかし建築家としての腕は良いのでしょうか、長年働く事務所を独立するでもなく、お金儲けより、言わば職人気質の人なのですね。若手からも慕われ、彼が老いを認めず現役にこだわるのもよくわかります。それにハートの旦那さんが、とっても素敵なのね。熟年の心豊かさと、精進して仕事も家庭も結果を出した余裕が、ハゲまでセクシーに見せる。若くて綺麗な娘が迫りたくなのも納得の魅力です。
美人の妻は、今は肥満気味の体なのに、首はシワがいっぱい。同じ60でも男女でこれだけ差があるとは、女って損だわなぁ。夫婦なんだから夫にも同じように老けろと言うのは、気持ちはわかるけど、やっぱりダメですよね。うちは夫が8歳年上で、最近加齢が進み気味。孫もいないのに、家族で「おじいちゃん」とからかっていますが、本当に老け込んだら困るので、もう止めておきましょう。
私がしみじみ胸が熱くなったのは、子供たちの対応です。普段は「パパと兄さんは、経済や時事の話しかしないわ」(妹談)なのに、長男が両親の不仲を心配し、兄弟を呼び寄せ、せっせと世話を焼くのです。メアリーはイタリア人で成人してアメリカに来たのですが、彼だけがママではなくマンマと呼び、家族をラ・ファミリア、末っ子の弟をバンビーノと呼ぶ。最初の子で、イタリア語で話しかけるのも多かったのでしょう。子供の中で、一番長く親子をしているのです。「マンマは家族のために自分の人生を犠牲にした」と、家庭のため教師の職を辞めた母の苦労もしっかり認識しています。そして仕事も家庭も上手く行かない、傷心の父親のハゲ頭も抱きしめる。やっぱり長男よね!
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03月11日(日)
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