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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ザ・ファイター」

いや〜、びっくりした。イタリア系ならいざ知らず、アイリッシュ系の人たちが、あんなに家族の絆が強いとは。韓国人かと思っちゃったわ。本年度アカデミー賞助演男優賞(クリスチャン・ベイル)・助演女優賞(メリッサ・レオ)受賞作品。暑苦しい家族愛を描きながら、意外と爽やかな後味が残る秀作でした。実話が元にした作品で、監督はデビット・O・ラッセル。
アメリカのマサチューセッツ州のローウェル。貧しい労働者階級が住む町です。かつてシュガー・レイ・レナードをダウンさせたことが唯一の自慢のボクサー、ディッキー(クリスチャン・ベイル)。将来を嘱望されたボクサーだった彼ですが、今は薬に溺れ落ちぶれています。異父弟のミッキー(マーク・ウォルバーグ)は兄を慕いボクサーになりますが、自分たちの都合で無茶な試合を組むマネージャーの母アリス(メリッサ・レオ)とディッキーのせいで、低迷しています。そんなミッキーを心配した父のジョージ(ジャック・マクギー)は、バーで働くシャーリーン(エイミー・アダムス)を紹介します。ほどなく恋仲になった二人ですが、シャーリーンはミッキーが大成するためには、家族と決別すべきだと言い放ちます。
家庭が特異過ぎ。母アリスは二人の息子の他に娘が7人。父親は数人に跨ぎ、どれもこれもが衣食住は未だ親(ってか、ミッキーのファイトマネー)に依存、美貌も教養もなくグータラしているだけの毎日。そこに君臨するのが、その上を行く強者の母親。そりゃディッキーやミッキーの嫁も逃げるわな。
ヤク中で今は往年の見る影もないディッキーが、未だ家族の誇りですが、それはアリスの意向でしょう。ミドルティーンくらいでディッキーを産んだのと思われます。男遍歴を繰り返し、父親違いの子を産み続けても、彼女は決してディッキーの手を離さなかったはず。それはどんな境遇でも、自分は母に愛されているという実感を、ディッキーに植えつけた事でしょう。「長男」を心の支えとするのは、母親としては自然な事で、言わば家族の絆を一つにするイコンがディッキーだったのでしょう。
一見ミッキーを食い物にしているように見える家族。事実シャーリーンはそう感じています。私は違うと思う。家族は心の底から、いつまでも運命共同体でいるのが幸せだと思っているのでしょう。いつ壊れてもおかしくない環境だから生まれた思いなのでしょう。哀しいかなそこに、教育のなさを感じてしまいます。
「9人子供がいても、全部同じように愛しているわ」とアリスは言います。全然違うじゃねーか、なのですが、彼女の中では本気でそうなんでしょうね。確かに子供は一人も捨ててないんだなぁ。こんな境遇なのに子供全員から愛されているのですから、天晴れなもんですよ。
メリッサ・レオは私より一つ年上なだけで、それで設定40歳の息子がいる役は可哀想だと思っていましたが、なんのなんの。いつまでも若々しいことを命題にする女優が多い中、彼女はちょい老け気味なのが功を奏しています。15〜6で産み始めたらこんなもんかな?ビッチな大年増の色気がたっぷり。自分勝手なエゴで子供を束縛する母親ですが、哀れさは微塵もなく、むしろ同じダメな母なら、子供を甘やかすより君臨する方がいいのかと、錯覚してしまいます。
30過ぎても家族の呪縛から逃れられないミッキー。優柔不断で情けなく見えますが、これだけ家族一丸となって固まっている中から抜け出すのは至難の業。他所から誘いを受けて移籍したいのに、母や兄に一喝されるや、それも言い出せず。何とも意志薄弱なのですが、母と気質の似ている恋人シャーリーンを得て、自我が出せるようになったのは、幸せな皮肉ですかね?
落ちぶれて下卑たディッキーを、憑依型の演技でベイルが好演。またも大幅に減量して、ぎらついた目がいっちゃっています。最愛の母の前では、いつまでも希望の星でいたいというマザコンぶりは、母子の背景を考えると切なくなりました。とってもいいんですが、歯並びを変え、ハゲまで作るこの役作り、どうしてもデ・ニーロを彷彿させます。出来ればいつの間にか「普通の役者」になってしまった、デ・ニーロのようにはならないで欲しいな。
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04月12日(火)
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