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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「死にゆく妻との旅路」


もう号泣しました。劇場は私前後の年齢のご夫婦がいっぱでしたが、多分私が一番泣いたと思う。この作品の主人公夫婦は11歳の年の差、夫と私は8歳差。既に大人だった男性と、まだまだ子供で世間知らずだった女の子の結婚だったというのが一緒です。さりげなく交わされる夫婦の会話の一端から、二人がどんな夫婦であったかが一瞬にわかり、とにかく夫婦両方の気持ちが手に取るようでした。実際に10年ほど前に、末期がんの妻をワゴン車に乗せ9か月日本全国を放浪、妻は亡くなり保護責任者遺棄致死の罪状で逮捕された男性の手記が原作です。監督は塙幸成。瑞々しい感受性に溢れていた「初恋」の監督さんです。今回ネタバレですが、是非読んでいただきたいです。

石川県で小さな縫製工場を営んでいた清水久典(三浦友和)。4千万円の借金を返済せねばなりません。22年連れ添った11歳年下の妻ひとみ(石田ゆり子)は、ガンに侵され病院から退院直後。金策に走る久典は、ひとみを一人娘沙織に預けます。戻ってきた久典ですが、金策は出来ず自己破産寸前。相談がてらワゴン車に乗り込んだ夫婦は、有り金50万を持ったまま、そのまま宛てのない旅に出ます。

先行きが真っ暗なのに、「おっさん(夫のこと)、知ってるか?これ結婚以来初めてのデートやねんで。」と、嬉しそうにはしゃぐ妻。出掛けるときは、いつも子供もいっしょだったと語ります。娘の沙織は既に結婚して赤ちゃんに恵まれたばかり。今まで幾らでも夫婦二人だけで出かけるチャンスはあったはずです。四千万の借金は膨大ですが、事業でそれだけ借金出来るということは、羽振りの良い時もあったということ。妻は借金は知らなかったようで、家内工業的な事業のはずなのに、妻には手伝わせていなかったのでしょう。入院中の妻に退院時には戻ると言いながら、金策に出る夫。何か月も帰ってこないばかりか、途中で浮気もしています。

放浪中、手作りの味噌汁を妻に差し出す夫。「おいしいなぁ。料理が出来るとは知らんかったわ。一度も作ってくれたこと、なかったやないの」と嬉しそうな妻。この夫は妻を大事にしていたとは言い難かったと思います。妻には仕事をさせず養い、時々の「妻子」への家族サービス。これで妻も充分だと思い、自分ひとり盛大に遊びもしたことでしょう。置き去りにされた妻の哀しさには頭が回らない、そんな「ありふれた中年の夫」であったと思います。

お金があった時もあるでしょうに、妻はセンスがいいとは言い難い、安物の装いばかりです。しかし垢抜けないその服装はいつも少女っぽく、早くに結婚して少女のまま大人になった妻の心が、映し出されているようです。放浪中に住んでいた町と同じスーパーがあり、懐かしがる妻。一緒に働き口が見つかった時に着るのだと、やはり安いスカートを夫にねだります。お金があるときもない時も、常に質素で地味な人だったのでしょう。

「もう『お母さん』は止めて。名前で呼んで欲しいわ」という妻。「家族」と言う枠で夫に接せられるのではなく、妻として観て欲しいと長年思い続けてきたのでしょう。初めは彼女が「おっさん」と夫を呼ぶ度、違和感があったのですが、これは結婚当初、何をしても太刀打ち出来ない大人であった夫に対して、若さを誇示するしかなかったのだと理解できると、その呼び方にいじらしささえ感じます。

二人は当初、借金から逃れるのではなく、働き口を見つけるための旅でした。二人で住み込みで働いて、基盤を作って故郷に帰ろうとしていました。戻って頭を下げて一から出直すことが、夫には出来なかったのでしょう。当然督促は親戚はおろか、新婚間もない娘にも及びます。普通の母親なら娘を思い、家に帰ろうと言うはずですが、妻はそのままの旅を望みます。


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03月08日(火)
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