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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛する人」
年に何本かは、あらすじを読んで、これは私の映画だと直感する作品があります。この作品もそうでした。たくさんの母と娘が出てきますが、手に取る様に全ての人の心が深く沁み入り、途中からもう滂沱の涙。恥ずかしいくらい泣きました。丁寧に繊細に情感豊かに、母と娘の心の軌跡を紡いでいく秀作でした。監督はロドリコ・ガルシア。

作業療法士としてクリニックで働くカレン(アネット・べニング)。14歳の時に出産した彼女は、実母によって強制的に娘を養子に出され、ずっとわだかまりを抱えつつ、今は母を介護していますが、娘の事は片時も忘れてたことがありません。その娘エリザベス(ナオミ・ワッツ)は、養父母と折り合い悪く早くから自立。今は優秀な弁護士として活躍していますが、男性とは体の関係以上の事は求めず、独りでいることを望んでいます。形を変え、二人とも不器用な生き方をしていた頃、エリザベスは思わぬ妊娠をし、生みの母を意識し始めます。

至る所で確執を感じさせるカレンと母。甲斐甲斐しく介護する様子からは充分な親孝行を感じさせますが、二人とも笑顔一つ交わしません。折々に養子に出した娘の事をカレンは口にしますが、それは母親を暗に責めているからです。

気難しく殺伐とした印象のカレン。娘の事を後悔して自ら律したと言うのもあるでしょうが、それ以上に母親がそれ以降厳しく接したと思うのです。日本であれアメリカであれ、14歳の出産は本人のふしだら以前に、親としての責任が問われる事です。親にとっても人生が変わるようなショッキングな事のはず。娘の将来を案じた母は、自分の育て方の至らなさを猛省し、娘がこれ以上「堕落」しないように懸命だったのではないでしょうか?しかし立派に職を得て自立した娘は、人としての温かみを一切失ってしまいます。

それが端的に現れていたのが、カレンに好意を寄せる同僚男性パコ(ジミー・スミッツ)とのやり取りです。自分も関心があるのに、その先を考えてまず身構えてしまい、ケンカ腰の物言いで、最悪です。そのあまりの不器用さに、過去が心の傷となり、以降恋をした事がなかったのだと感じました。

母が薄々解っていた自分の過ち(とは一概には言えないが)を確信したのは、毎日来るラテン系のメイドと幼いその娘のお陰でしょう。女手一つで健気に娘を育てるメイドから、自分の娘にもこういう生活があったのではないか、何故自分は母として支える事を考えなかったのか、そうすればカレンの人生にも笑顔があったのではないか?きっと悶々としたでしょう。

母の死後、メイドから「お母様はあなたに謝りたいと仰っていました」と聞かされ、「何故直接私に言ってくれなかったの!」と慟哭するカレン。ここで私も一緒に号泣。痛いほどその涙がわかる。母は言うのが怖かったのです。娘の一生を台無しにしたのが、誰あろう娘を一番愛していると自負している、自分であると認める事が。

メイドはカレンの過去は聞いていないと言いますが、私は知っていたと思います。だから通う日数を減らされて賃金が減っても来ると言います。カレンに嫌われている娘も連れて。きっと彼女は亡くなった母を深く理解していたのですね。母の代わりにカレンを見守り、じっと変化するのを待ったのだと思います。

苦悩するカレンの日常と並行しながら、物語は出自に葛藤するエリザベスの生活も映します。自分の過去を誰にも言えず抱え込むカレンに対し、問われれば包み隠さず自分の出自を話すエリザベス。カレンは母という存在の煩わしさもあったでしょうが、守ってくれる存在でもあったはず。しかしエリザベスには何もない。本当の天涯孤独。心に火傷したり砂を噛む思いもいっぱいして、真っ裸の自分を晒すことで強く生きる選択をしたのでしょう。


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01月27日(木)
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