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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フォロー・ミー」(午前十時の映画祭)


今映画祭の目玉作品。なんたってビデオもDVD化もされていません。私は二十歳頃テレビの深夜放送で観て感激。次に観たのは、ケーブルの放送時でした。熱狂的ファンが多い作品として有名で、平日でしたが場内は満員。名匠キャロル・リード監督の遺作で、音楽はジョン・バリー。やっぱり劇場で観ると格別ですね。今回久しぶりに観たせいか、はたまた年のせいか、うるうるあちこちで泣けました。この作品がDVDになっていないなんて、犯罪だと思います。

ロンドンで会計士をしているチャールズ(マイケル・ジェイスン)は順風満帆な仕事とは反対に、新婚のアメリカ人の妻ベリンダ(ミア・ファロー)の近頃の浮ついた様子に、妻の浮気を疑い探偵(トポル)を雇います。

昨今は時空いじり系の作品が多いですが、38年前のこの作品は、前置きして過去の出来事を描いていて、すごくわかり易いです。全ての過去の展開が前置きつきですが、それでもちょっぴりしたサプライズがあったり、ミステリーじゃければ、私はやっぱりこちらが好きだなぁ。

家柄も良く学歴高く教養もあり、おまけに仕事はステイタスの高い仕事のチャールズ。ベリンダは幼い頃両親は離婚、一つの居場所にとどまることはなく、その土地土地で仕事をして暮らしている風来坊。当時の背景からいうと、インドへ訪れた話を入れるなど、ヒッピーだったと思います。正に水と油の夫婦です。

釣り合わぬは不縁の元は万国共通、結婚半年後くらいには「僕の可愛い教え子だった妻は、謎の女の変身する(夫談)」わけです。なまじっか夫に知識があるのがいけない。出歩いてばっかする新妻が、「ボヴァリー夫人」なんかに傾倒しちゃ、そりゃ浮気を疑いますよ。うちの夫ならボヴァリー夫人なんか、内容どころか題名も知らないもん。教養も時として邪魔になるんですね。

二人が魅かれあったのは、お互い自分の人生には無いものがある、その新鮮さだったのだと思います。同じレベルの人々との親交は安定感はあるものの、物足りなさを感じていたチャールズ。彼がベリンダに魅かれた一番の理由は、豊かでユニークな感受性と自由な心だったのだと思います。そう、彼の人生に一番欠如していたのは、「自由」だったんですね。でもこの時点で彼はその事には気付いていません。ベリンダを素直で愛しい「教え子」だと思っています。

ベリンダは両親の離婚体験など、安定した暮らしをしたことがありません。文化的な教養を得る機会も少なかったのでしょう。好奇心が強そうで素直なベリンダが、自分とは別の世界で充実した人生を送っている(ように見える)チャールズに魅かれるのも、これまたとっても自然です。彼を知って、初めて安住の生活というものに、憧れを抱いたのかも知れません。

それが結婚した途端、教養豊かな安定した生活は息苦しく退屈で、自由で豊かな感受性は、未熟で自分勝手に感じ方が変わるわけす。夫にしたら愛情は持っていたけど常に上から目線、妻が自分に合わせるのは当然だったでしょう。妻も教え子ではあっても、自分も彼に与えるものがあり、いっしょに成長して行けるもんだと思っていたのが、待っていたのは息苦しさと誰にも理解されない孤独だけ。その孤独を救ったのが探偵でした。

浮気調査をしていたはずの探偵は、ベリンダを空虚で寂しい現実から逃避させます。その様子が本当に素敵で。探偵に不信感を抱いていた当初から、段々彼の存在を意識し、ベリンダが心通わせる様子が自然に描かれています。常に15m離れて言葉は絶対交わさない。リードするのは探偵だったりベリンダだったり。人がたくさんいる場所を巡っても、当初は群衆の中で、一人孤独を噛みしめるベリンダが、探偵と道連れになって再びその場所を訪れると、そこは楽しさを分かち合う、全く別の場所に感じるのです。慰めの言葉など一切なくても、ベリンダは孤独から救われるわけです。


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04月25日(日)
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