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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「Dr.パルナサスの鏡」

ヒース・レジャーの正真正銘の遺作。というより、私は監督がテリー・ギリアムだから観たんだけど。撮影中にヒースが亡くなり、完成が危ぶまれていた作品ですが、ヒースの友人であったジョニデ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが、鏡に入った時のヒースの役を演じると言う脚本に書き替え、完成させた作品。三人は入ったギャラをヒースの娘に全額手渡すという、「ちょっといい裏話」もある作品です。同じ拡大公開の「ブラザース・グリム」の時は、スティーブン・ソマーズになったんですか?というくらい「普通にそこそこ面白い」という感じのギリアムでしたが、今回は冒頭から、おぉ!ギリアム!という映像に溢れ、懐かしのモンティ・パイソンを思い出させる風刺も入り、ギリアムのシュールな世界が充満で、私は面白く観られました。
2007年のロンドン。パルナサス博士(クリストファー・プラマー)率いる旅芸人一座は、心の中の欲望を描きだす鏡「イマジナリウム」を出し物にしています。しかしそんな胡散臭い出し物には誰も興味を示さず、娘のヴァレンティナ(リリー・コール)、博士の片腕的存在のパーシー(ヴァーン・トロイヤ)、弟子のアントン(アンドリュー・ガーフィールド)は皆、始終腹ペコの貧乏一座です。博士にはある悩みがありました。それは悪魔ニック(トム・ウェイツ)と不死の契約をした時、ヴァレンチナが16才の誕生日に、彼女を差し出すことになっていたのです、悶々としてた博士ですが、ある日首吊りの男トニー(ヒース・レジャー)を救ってから、一座の風向きが変わってきます。
のっけから超クラシックな一座の様子が出てくるわ、住居兼用になっている馬車もぼろっちいけど夢がある。そしてイマジネーションの産物である鏡の向こうの風景が出てくると、ギリアム〜〜〜とため息が出る程、シュールな世界が展開されます。こういうのを観ると、健在ぶりが確認出来て、何だか安心します。想像力豊かなんですが、どこかしらキッチュに感じるのも、贅沢なCGが主流の現在を向こうに回して、カッコいいです。
その想像の世界なんですが、一見良識ぶった女性の深層心理がとっても俗っぽかったり、慈善家は表の顔で、裏ではあくどいことをしていたり。一番面白かったのはロシアンマフィアの欲望で、暴力を渇望すると上半身制服、下半身ストッキングだけの姿のオッサン達が出てきて、「なら警官になりましょう〜〜、殴っても蹴っ飛ばしても殺人もOK〜♪」と歌い踊るシーン。もうゲラゲラ笑っちゃってね、モンティ・パイソンを思い出しました。そういえばこういう毒の利いた、お下品な風刺で笑ったなぁ。もっと見とけば良かったわ。映像はと〜〜〜っても満足しました。
友情出演の三人は、鏡の向こうのトニーが、その時々の願望で顔も変わるという設定で出演。苦肉の策の演出でしたが、違和感なかったです。ジョニデ、ロウ、ファレルの順番で出演で、段々出演時間は長く、トニーの背景が暴露される演出になっています。段々悪い奴になっていくんですが、役者の格で順番決まったのかな?
でヒースなんですが、個人的にはこんなことになるまで、それほど注目した俳優ではなかったですが、今回最後まで観ると、何故この役を彼でキャスティングしたのかが良くわかります。そのまま鏡の向こうもヒースが演じたならば、人間の欲望というテーマは、もっともっとあぶり出されたことだと思います。強烈なキャラが多いハリウッドで、カメレオン俳優でもなくスター俳優でもなく、無個性の個性で勝負の、得難い役者だったなぁと感じました。
ヴァレンチナ役のリリーが超チャーミング。まんまるのファニーフェイスに不釣り合いな長身と抜群のスタイルで、元はスーパーモデルなんだとか。聞かん気で愛らしい、1000歳の博士の不思議な娘を、とても新鮮に演じていました。トロイアは出てくるだけで映画ファンは嬉しいですよね。皮肉屋で、博士の片腕なのに「自分がいなくなれば、また別の小人を探せばいいだけのこと」が口癖で、その達観した様子に知性が感じられます。
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01月27日(水)
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