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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛を読む人」

またまた素晴らしい!こんなに観る度に心が揺さぶられては、感受性が持ちません。この作品で念願のオスカー主演女優賞を取ったケイト・ウィンスレットですが、美人なのに年齢の割には貫禄があり、やや老けて見える彼女の特性と、いつもながらのマックスの演技力で、理解されにくいはずのハンナ・シュミットという女性の哀しみが、切々と私に迫ってきます。監督は「めぐりあう時間たち」のスティーブン・ダルトリー。
1958年のドイツ。15歳のマイケル(デヴィッド・クロス、成人後レイフ・ファインズ)は、道端で病に倒れた自分を介抱してくれたハンナ(ケイト・ウィンスレット)と、ひょんなことから関係を持ちます。15歳の少年と30半ばの女性。彼女の肉体の虜になってしまうマイケル。ハンナはセックス前の儀式として、本を朗読してくれるよう、マイケルに頼みます。夏が終わろうとする時、何も告げずマイケルの前から去ったハンナ。傷心のマイケルが次の彼女と再会したのは、8年後。法科大学生となったマイケルの前に現れたのは、ナチスの親衛隊員として裁判にかけられていた43歳になったハンナでした。
偶然から知り合った二人ですが、唐突なハンナからの誘いにはびっくり。年齢から考えての分別も全くありません。しかし、映画が続くに従って、何故彼女があのような激情にかられたのか、手に取る様に浮かび上がります。
マイケルには当然初めての女性で、この歳頃の子が女性を知ると、のめり込んでしまうのは無理からぬこと。大胆な濡れ場もたくさん出てきますが、あまり猥褻に感じないのは、マイケル演じるクロスの、この歳頃の男子の純情さが、滲み出ていた演技のお陰でしょう。そして儀式のような朗読。文芸作からコミックまで、ハンナの喜ぶ顔が見たくて、せっせと本を選び朗読するマイケル。「恋する少年」の喜びに溢れています。
対するハンナですが、息子のような歳頃の子を弄んでいるようには、私には見えませんでした。それどころか、些細な事で痴話げんかするわ、女の我がままを振りまき、マイケルを困らせるわで、まるで年齢差を感じさせません。これも後々理解出来るのですが、彼女はこの時「対等な恋」がしたかったのだと思います。
ハンナはある秘密を抱えていました。それを言えなくて、他の親衛隊の看守であった女性たちよりも、重罰を受けます。その秘密は前半でも伏線があり、私には早くにわかったのですが、秘密を守りたい彼女の狼狽を、ケイトは絶妙の演技でみせてくれます。人によっては、何故このことくらいで、と思う人もいるでしょう。しかし彼女にとってこの秘密は、自分にとっての尊厳を守る事だったのでしょう。
裁判官の問いに答えた彼女の、バカ正直で全く隙のない答え。それは彼女の折り目正しく秩序を守る、しかし融通が利かず頑固な性格も表しています。昇進を前にしては、転々と職を変えたのも秘密のせい。ここには、誇り高くて、秘密を抱えた自分を受け入れられない、ハンナの哀しさがあります。
他人から見れば、滑稽なプライドでしょう。しかし、人には誰でも触れられたくない部分があるはず。収容所の生き残り女性は、ハンナを称して「人間味のある知性的な人で、他の看守とは違った」と証言します。彼女の秘密は教育を受ける機会を奪われたこと意味します。一つ嘘を重ねると、人とはその嘘を隠すため、次々と嘘を重ね無くてはいけません。自分の生い立ち、家族、何故そうなったか、自分の過去が暴露されるかと思うと、ハンナには言えなかったのでしょう。一生牢獄に繋がれても構わない覚悟をさせるほどの苦しみ。その苦しみをずっと抱えてきたハンナの哀しみが私に入ってしまい、号泣してしまいました。この秘密さえなければ、職を転々とすることもなければ、彼女はナチスの看守になど、ならなかったと思います。
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06月21日(日)
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