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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「チェイサー」


面白い!映画の日に、「グラン・トリノ」とはしごしてきました。(実はその前に「おっぱいバレー」も観てますが、書く時間がない。取りあえずこれも観て損はないっすよ)「グラン・トリノ」も本当に感激しましたが、これはたくさんの方が感想を書いているので、観ている人の少ないこちらから。だって本当にびっくりするくらい、面白いんだもん!監督はこの作品が初のナ・ホンジン。これが初監督なんて、これも驚愕。韓国で実際にあった連続猟奇殺人を元にした作品ですが、基本的にはフィクション。同じような題材の「殺人の追憶」より、個人的にはこちらが好きです。

デリヘル経営者の元刑事ジュンホ(キム・ユンソク)。使っていた女性たちが、次々と借金を残し失跡するのに腹を立てていたのですが、女性たちが最後に向かった客の電話番号が、皆同じ事に気付きます。今夜もその電話番号が鳴り、風邪で臥せっていたミジン(ソ・ヨンヒ)を無理やり行かせます。しかしその相手こそ、連続殺人鬼のヨンミン(ハ・ジョンウ)だったのです。ジュンホによって捕えられたヨンミンですが、あっさり殺人を自供。しかし全く証拠が出ず、逮捕令状のないままの拘束は、次の日の正午まで。それまでに証拠を掴まんと焦る警察なのですが・・・。

冒頭やさぐれ感満点で、金銭的にも苦境に陥っているジュンホの様子が映ります。危険な目に遭わされる他のデリヘル嬢の様子も映し、雇う側と雇われる側との信頼関係も無く、お互いがゴミかクズくらいしか思っていません。これが後々のジュンホの変貌を感じさせるのに効果的です。

殺人現場の様子や、獲物を追い詰めるヨンミンの様子は、本当にぞっとさせます。一見平凡で、むしろ優しそうな容貌のヨンミン。しかし数々の猟奇的シーンの一つ一つ、まるで血の匂いまで嗅いだ気になるくらい、生臭く怖いです。反比例するような彼の容姿は、得体の知れなさを煽り、精神異常者なのか?それとも相当な知能犯なのか?怖さを倍増させるのです。

普通はこの手の猟奇的殺人を扱った題材は、犯罪者側の心の闇に迫り、掘り下げるのが定説ですが、この作品は潔いくらいほとんどなし。しかしそこには「ファニーゲーム USA」にあったような、奇妙な爽快感は全くなく、湿った空気が支配する劇中、韓国人が持つ独特の情や恨の感情が浮き彫りになり、暴力そのものではなく、ヨンミンに対しての強い怒りが湧き上がります。

ヨンミンは2度も殺人を自供しているにも関わらず、寸でのところで毎回証拠が上がらず釈放を繰り返しています。腹立たしさを感じるとともに、警察の無能さも感じます。しかしただ警察はぼーとして仕事が出来なかっただけなんでしょうか?夜中一睡もしないでヨンミンを尋問、夜中に雨の中、山中で泥だらけになり証拠探し。必死になって仕事をする彼らの前に立ちはだかる、「規則」と「人権問題」。この二つは市民生活を守る上で、とても重要なことです。しかし最初にヨンミンの犯行現場を見せたのは何故か?単なる犯人探しのサスペンス仕立てにしなかったのは、行き過ぎた「規則」や「人権」は、真実を見失い、却って墓穴を掘ると言うことが、言いたかったんじゃないでしょうか?

なので、ヨンミンを追い詰めたのが元刑事であり、違法な仕事が飯の種であるジュンホである、ということが重要なのでしょう。手の内を知った警察内部を潜り抜け、自分が捕まる危険を冒しながら最後までヨンミンを追い詰めるジュンホは、「規則外」の人間なのです。


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05月03日(日)
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