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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「イントゥ・ザ・ワイルド」


予告編とショーン・ペンが監督ということだけを頼りに観ました。裕福な家庭に育った、感受性豊かな青年の自分探しだと思っていた予想は、早々に撤回。まるで自分の身を切られるような痛みと厳しさを主人公と共有し、彼の魂の慟哭と浄化の繰り返しを観て、何度涙したかわかりません。その果ての粛々とした静寂と心からの安息。なんと素晴らしい作品でしょう!

1990年、ジョージア州アトランタの大学を、優秀な成績で卒業したクリストファー(クリス)・マッカンドレス(エミール・ハーシュ)。裕福な家庭に育った彼でしたが、両親(ウィリアム・ハート、マーシャ・ゲイ・ハーデン)からの援助の申し出を全て断り、無一文からアラスカを目指し、家族から身を隠すようにして旅立ちます。名前もアレキサンダー・スーパートランプという偽名を使い旅するクリスは、行く先々で様々な出会いと別れを繰り返します。

ただのお坊ちゃんの自分探しではなかったのです。彼の育った家庭は複雑で、幼い時から両親の不仲を観ながら、妹(ジェナ・マローン)と二人、心を痛めて育ったのです。ケンカの繰り返しだけならまだしも、父親の暴力、子供たちも呼ばれての話し合い、果てはどちらの親を選ぶかなど、子供には残酷で辛い事ばかり。子供を交えての話し合いなど、所詮親の言い訳で、こんな時の子供は、両親の果てしない詰り合いを聞きながら、居たたまれず、なすすべもなくただ涙を流し続けるだけなのです。それがどんなに心に傷を残すのかは、私にはとてもよくわかる。だって私がクリスと同じように育ったんだもの。

彼の放浪は途中車も乗り捨て、ヒッチハイクと野宿が主で、お金が底をつくと働く事の繰り返し。リュックに生活用品一式を背負い、缶詰を食べ畑の放水車で体を洗い、草むらで眠る毎日。文明を否定した生活はとんでもないのですが、しかし優等生であることを強いられ、重苦しかった親からの解放で、望んでいた真の自由を手にした彼は本当に生き生きとしていました。家庭に問題があると、子供は自立する時を逸してしまいがちです。飛びたい時に飛べないのです。彼の取ったこの極端な行動は、如何に親の呪縛が強かったかと物語っていると感じました。しかし自由を得た彼は、尚もアメリカで最後の未開の地と言われるアラスカ行きをあきらめません。「自然の中では自分は強いと思いこむのだ」という書物の引用が出てきますが、クリスはもっと強い自分になりたかったのでは?

何故強くなりたいのか?今の自分では、クリスは親を受け入れ赦すことが出来ないからだと感じました。少年のような純粋な感受性のまま青年になったクリス。いつまでも親、取り分け父親を許せぬ卑小な自分が、きっといやだったのだと思います。学資金の2万4千ドルは、恵まれない人に寄付して旅を開始します。学資金はクリスが優秀な成績を収めて得たものでしょう。しかし親の庇護の元、勉強に励むことが出来た結果だと、聡明な彼はわかっていたと思います。親の影が一切ない清貧の暮らしの中、「アレクサンダー・スーパートランプ」として、どこまやっていけるのか?ただの親への反抗心ではなく、気骨のある反骨心だと思いたかったのだと感じました。

たくさんの出会いの中、彼らに学び彼らに与えるクリス。ヒッピーカップルのレイニー(ブライア ン・ディアカー)とジャン(キャスリン・キーナー)、気がよく豪快な農場主のウィル(ヴィンス・ボーン)、孤独だけれどクリスを慈悲深く包む老人ロン(ハル・ホルブルック)。それぞれの場面が一言では言えない味わい深さで描かれ、強い余韻を残します。


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10月03日(金)
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