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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「イースタン・プロミス」


ヴィゴ様全開!待ちに待ったこの作品、レディースデーでもリーブルの会員デーでもない月曜日に観てきました。ヴィゴ様のためですもの、1500円だって払いますわよ(劇場会員なので300円引き)。聞いてはいたのですが、クローネンバーグにしては、至ってノーマルな、心に沁み入る社会派ミステリーの傑作でした。いや、確かにクローネンバーグらしいグロテスクな場面はあるんですけどね。そう言えばヴィゴ&クローネンバーグの前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」も、そんなこと言われてませんでしたっけ?ふ〜ん、ヴィゴ様がクローネンバーグを進化させたのかも?

ロンドンのとある病院に勤める助産師のアンナ(ナオミ・ワッツ)。救急で運ばれてきた臨月のロシア人少女は、女の子を産むと、ほどなく死亡します。アンナは少女が残した日記を手掛かりに、必死で赤ちゃんの身内を探します。ロシア語のわからないアンナは、日記に挟まれていたカードを手掛かりに、ロシア料理店のオーナー、セミオン(アーミン・ミューラー・スタール)まで辿りつきます。しかし温厚そうなセミオンの裏の顔は、ロシアンマフィア「法の泥棒」のボスで、少女の日記には彼らの秘密が記されています。セミオンの息子キリル(ヴァンサン・カッセル)の運転手で、謎めいた男ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)は、「深入りはするな」と、アンナに忠告します。

ノーマルと言っても18禁、かつてデビッド・リンチが「ストレイト・ストーリー」という、「まともな感動作」を作って、観客の度肝を抜いたのとはちと違い、こちらは細部に監督の趣味が感じられます。まずは「血」。冒頭の喉元かっきっての殺人場面や、14歳の若過ぎる母の痛ましい陣痛を知らせる様子など、非常に生々しく印象に残ります。美貌のヒロイン(ナオミ・ワッツ)を起用しながら、ニコライへの恋に身を焦がすのはゲイ(多分)のキリルで、この二人のツーショットは艶めかしく、常に同性愛の匂いが立ちこめます。ロシアンマフィアの人生を映す全身のタトゥー、そして話題のサウナでの全裸バトルなど、細部の彩りもケレン味たっぷりなんですが、それのどれもが、リアリティを持って観る者に迫ります。

で、ヴィゴ様。初登場シーンから、ただの運転手なわきゃない怪しさです。注意深く見ていれば、彼の秘密はわかったはずなんですが、あまりのクールなカッコ良さぶりに、ワタクシ萌え萌えで観ていたので、全然わかりませんでした。善なのか悪なのか?生い立ちは?セミオン親子への忠誠心は本物か?アンナへの思いは?等々、謎めいた佇まいは、全て表とは裏腹なんじゃないかと思わせるのですが、それがヴィゴのキャラと重なって、強烈な魅力となって伝わってきました。

全裸のバトル場面は、その衝撃性だけが興味本位で取り上げられていますが、私が痛感したのは、裸とは何と無防備なものかということです。場所はサウナで、相手は服を着て靴も履き凶器も持っている。文字通り裸で相対するのは、とてつもない恐怖なのだと感じるのです。ニコライのその姿は、全く自分の人生には関わりなかったマフィアと闘う、アンナの姿とリンクします。サウナの場面は、007的アクションではなく、確かにこうなんだろうなぁと想像できる仕上がりで、大きな見どころシーンとなっています。

アンナはニコライと、微かな思いをお互い交錯させますが、基本的には母性を表現することを担っています。流産直後という設定で、目の前に再び現れた、自分が失くしたものへの溢れる愛は、私には非常に共感出来るものでした。普段は美しいワッツですが、仕事での疲れた様子や、プライベートでの憔悴した姿など、美しく観える場面はありません。しかしその普通さが返って、アンナの強固な意志や赤ちゃんへ想いを際立たせていて、効果的でした。普通でしたが、ワッツの存在感は薄らぐことは全くなく、さすがの演技派ぶりでした。


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06月17日(火)
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