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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「シッコ」

前作のブッシュ支持派からの猛烈な抗議必死の「華氏911」では、腹の据わった男気が私を感激させたムーア監督ですが、今回も毎度お馴染み偏った視点で華麗なる山師ぶりを楽しませてくれました。世間様には大好評だった「ボウリング・フォー・コロンバイン」ですが、私はあんまり。一番いやだったのは、その山師ぶりより、私の子供の頃のアイドルだったチャールトン・ヘストンを笑い物にしたことです。このお方を誰と心得る、モーゼ様なるぞ、ユダ・ベンハー様なるぞ、猿の惑星が地球だったと無念の思いをした方なるぞ、チンパンジーのジーラ博士とチュウした方なるぞ!(これは関係ない)、えーい、頭が高い!それを現役時代ならいざ知らず、チャックがほとんど棺桶に片足をつっこんだ今、ようも晒し者にしてくれたなぁ、!と、お年寄りは敬おう精神が身に沁み込んでいる、儒教の国の血を引く私としては、大変腹が立ったのでした。でも今回はアメリカ政府及び保険会社が相手ですから大丈夫。偏った視点は間引いて観ても、考えさせられる内容でした。

↑チャック・ヘストンだよ。
今回のムーアのターゲットは「医療制度」。アメリカはご存じのように健康保険制度がなく、国民は民間保険に加入しています。もちろんたくさんの無保険者もおり、私はそのことを問題提議にした作品だと思っていましたが、実はなかなかお金の下りない保険会社の周辺を取材して、健康保険制度のないアメリカの医療の実態に迫ったものでした。
私も去年手術に際して、加入している某日本の生命保険会社から、きちんと約束通りに保険金をいただきましたが、どうもアメリカはそうじゃないらしい。自分たちの会社の利益を上げるべく、ちゃんと保険に入っていても、保険会社の委託医が主治医の治療を「有効と認めず」と判断すれば、お金は全く下りないという拝金主義ぶり。22歳の時子宮頸がんになった女性は、「その若さで子宮がんはおかしい」との保険会社の判断で保険が下りなかったのには、絶句しました。その他諸々、考えられないような保険会社の判断基準に目が点になります。私が涙が止まらなかったのは、移植手術が有効だとわかっているのに、保険会社からGOサインが出ないため、夫が亡くなってしまった女性のお話です。この辺のムーアの訴え方演出の仕方は、情感濃くて上手いと思いました。アメリカは小金持ちくらいでは、病気や大怪我には対抗できない模様です。
充分観客が怒りや背筋を凍らせた後、今度は各国の医療制度を視察すべく、監督ムーア自ら諸国漫遊です。カナダ、フランス、イギリスと、同じ西側諸国は全て国の健康保険制度を導入しており、医療費は全て無料です。その充実した医療体制、存分に働きそれに応じた豊かな報酬を得る医師、医療制度に満足する国民を映します。
ここで持ち前の山師精神を発揮するムーア監督。他の国々は何故こういう制度の恩恵を受けられるかというのは、税金がアメリカより高いからだと、普通に気がつきますが、その辺は華麗にスルー。フランスでの在仏アメリカ人たちとの会話も、やらせとまでは言いませんが、良き所だけを集めて語っているのは明白だし、モデルケースとして出てきた夫婦は、あれが極々普通のフランス人家庭だと思う人はいないでしょう。結構な恵まれた層だというのは、これまた明白です。イギリスでは保険制度は充実していますが、その代りガンの手術で一年待ちなど普通だとも聞きました。アメリカの医者は金に目が眩んで、保険会社の言いなりと言う風な演出ですが、これまた一人だけ良心の呵責に苛まれた医者を登場させるだけで、現場で治療に当たる医師たちの意見は黙殺され、片手落ち感おびただしいです。
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08月31日(金)
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