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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「トゥモロー・ワールド」
予告編から期待大だった作品、今日観て来ました。1970年代の初頭、「赤ちゃんよ永遠に」という、地球上が大気汚染に侵され、赤ちゃんを産むことが禁じられた世界を描くSF作品がありました。今から20年後を描くこの作品は、皮肉なことに「禁じられた」のではなく18年間赤ちゃんが産まれてこない世界が舞台です。SFの形を取りながら、未来に警鐘を鳴らすのではなく、今地球上に起こっていることが描かれていました。生命の操作、幼児虐待がマスコミで連日取り上げられる中、遠巻きにいるような私たちが何を成すべきかの、糸口の見える作品でした。監督はメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロンです。
2027年、地球上では18年間原因不明の不妊が続き、生命の誕生が絶えていました。希望を失いつつある今、世界各地では暴力が蔓延し、不安定な状態が続いていました。辛うじてイギリスだけは厳重な厳戒態勢を敷いて、不法入国者を取り締まっていました。エネルギー省の務めるセオ(クライヴ・オーエン)は、ある日突然拉致されます。彼の妻だったジュリアン(ジュリアン・ムーア)率いる反政府組織”フィッシュ”による犯行でした。ジュリアンは移民の少女キーの、通行所証発行を、セオに頼みます。”ヒューマン・プロジェクト”と名乗る組織に、彼女を引き渡すためです。結局ジュリアンの願いを聞き入れたセオですが・・・。
SFで未来を描くと、必ず暗く汚くジメジメしていますが、この作品もそうです。地球温暖化のせいで雨が多くなっていると想像されているのか、地面もいつもドロドロです。取り締まられている不法入国者も、まるでホームレスか罪人のような扱いです。しかし何よりインパクトがあるのが、冒頭でいきなり紹介される、地球上で一番若い18歳の少年の死です。18年間、一人も赤ん坊の生まれない世界。それが強烈にインプットされ、少々の説明不足や荒削りな部分には、目が届かなくなります。
キーをヒューマンプロジェクトに届けるためには、一緒にセオが同行することが通行証の発行の条件でした。そのためセオは大変な危険に巻き込まれ、彼が心から愛し、信じる人を一人ずつ失っていきます。何故みんなキーを奪い合うのか?
以下ネタバレ
キーが妊娠していたからです。ジュリアンも、セオたちを匿った友人ジャスパー(マイケル・ケイン)も、キーを守るため命を失います。ジャスパーが語る「信念」と「運命」のお話が印象深いです。ジュリアンと知り合った学生運動に没頭していた時の、セオの人としての「信念」が、キーを守らねばならない「運命」を引き込んだのでしょうか?他にも頼める人がいたのに、セオを選んだジュリアンは、今は投げやりな人生を送っている彼の「信念」を、見捨てなかったのでしょうね。
マイケル・ケインは、昔は反戦写真をたくさん撮っていたカメラマンです。風貌が、ジョン・レノンが生きていたらこんな風貌だったんじゃないか?と思わせます。ケインは若々しい感性と老人としての思慮深さ、そして隠された黄昏感も微妙に匂わせ絶品。年取って若い時より素敵になるなんて、本当に素晴らしい!認知症の妻との暮らしに、彼が死を考えたこともあるでしょう(匂わす場面もあり)。未来に希望の持てない生活ほど、辛いものはないと思います。未来を守るため、彼は自ら命を差し出したのだと思います。
キーの出産シーンは、へその緒が付いた本物の赤ちゃんが出てきたのかとびっくり!多分リモコンか何かで動かしている人形なのでしょうが、本当に泣くし動くし、本物の新生児のようでした。いやびっくり。
政府対反政府の戦いは、カメラの手ぶれ、血しぶきがカメラに飛んだままの撮影など大変な臨場感があり、ドキュメントのようでした。どうしても、あちこちで起こっている戦争が思い起こされます。同じく国を良くしたいという「信念」の違いのため、たくさんの人が亡くなっていくのです。その虚しさを知っているジュリアンだからこそ、平和的な解決を願っていたのに。結局「目には目、歯には歯」では、何の解決にもならないんだなと哀しく感じていた時、
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11月22日(水)
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