ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927703hit]
■「SAYURI」
日本を舞台に芸者の世界を描き、演じる中国人、日本人は全編英語をしゃべるハリウッド作品。早々に観るつもりでしたが、いつも観る時間帯はなんと吹き替え版。この作品に限っては、吹き替え版の方がしっくり来るでしょうが、どうしてもオリジナルの英語版で鑑賞したかったので、日曜日の夕方無理に時間を作って観て来ました。キャッチコピーは、「日本が嫉妬するジャパン」。なるほどオリエンタルなジャパンで、日本ではありませんでした。でも嫉妬するかな?
貧しさから芸者の置屋に9つの時売られた千代(大後寿々花、のちチャン・ツィイー)。そこにはやり手の女将(桃井かおり)や、売れっ子芸者の初桃(コン・リー)、端目のおカボがいました。下働きの辛さや初桃のいじめにへこたれそうになっていたある日、会長(渡辺謙)と呼ばれる男性と偶然出会い、その優しさに惹かれた千代は、立派な芸者になって会長に会うのだと決心します。置屋から逃げようとして失敗した千代には、花街の掟で一生端目とし生きなければならないはずでしたが、15歳の時、別の置屋の売れっ子芸者豆葉(ミッシェル・ヨー)から、千代を妹芸者として立派に育てたいと申し入れがあります。そして千代は芸者さゆりとなるのです。
予告編を観て危惧していたおかしなところは、やっぱりありました。原作は京都が舞台らしいのですが、京都の香りがほとんどありません。どの地方というのは説明になかったと思うので、別の設定かもしれませんが。もし京都が設定なら水揚げ前は「半玉」ではなく「舞妓」では?だらりの帯も舞妓さんぽかったのですが。そして髪型。お座敷に上がる時もアップでしたが日本髪ではなかったです。踊りのシーンもやたら扇子を放り投げてキャッチするのですが、まぁそれはいいかな。でもツィイーが一人で大舞台で踊りを披露する場面は、綺麗ではあるのですが前衛舞踊のようで、日舞ではありませんでした。彼女はダンサーとしても一流なので、どんな日舞を披露してくれるのか期待していたので、ちょっとがっかり。他にも初桃の昼間のしどけない姿は、芸者というより女郎さんの仕事前の姿みたいでしたし、客と混浴シーンがあったり、セリフで「芸者は芸を売るもの。体を売る女郎とは違う。」と出てくる割には、あまり区別がなかったように思います。
リアクションも「オゥ〜」「ウァオ〜」など、思い切り西洋人でしたし、他にも色々?なところはありますが、これがハリウッドから観た日本の花柳界なのだなぁと、割り切ってしまえばそんなに目くじら立てるほどでもないかもしれません。私がこう思える最大の功労者は、さゆりの幼少を演じた大後寿々花の好演にあります。けなげで可愛く賢い千代の姿は、観客を魅了するに充分。会長と初めて出会うシーンで、氷いちごの蜜を唇につけ、「私も芸者になれる?」というシーンは、本当に初々しくて微笑んでしまうほど愛らしく、千代に幸せになってもらいたいと願わずにはいられません。最初に好印象を持ってしまったので、それが持続して日本が舞台の英語劇も気になりませんでした。彼女は英語のセリフも頑張っていました。
しかしそういう「不思議の国ジャパン」を大目に見ても、お金をかけて壮大に描いている割には中身が薄く、訴えるものがあまりありません。千代は豆葉にしごかれ、普通何年もかかって芸者になるところを数ヶ月でお座敷にあがるのですが、通り一遍の稽古や作法の練習をしても、血の滲むような努力には見えず、千代が天性の芸者なのだと言う風にもツィイーからは感じられません。いくら芸が売り物といっても、処女を捧げる値段で値打ちが決められるなど普通の女性にはない厳しい世界に生きているのに、女性としての哀しさもあまり感じられません。心に決めた相手がいるのに、水揚げの場面でさゆりの心の葛藤が描かれないので、会長を思う心も純粋さより、芸者として生きるには甘いように感じられました。
[5]続きを読む
12月14日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る