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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「私の頭の中の消しゴム」
私くらいの年齢になると、友人達と会話していて必ず出てくるのが物忘れの話。笑い話になることがほとんどですが、何故いつもしてしまうかというと、心の底にアルツハイマー病を恐れる気持ちがあるからで、皆同じなのね、と安心したい気持ちがあるのかも知れません。この作品は、そのアルツハイマーに若くして侵されてしまった新妻と夫との物語です。主演は今チェ・ジウに続く人気と言われるソン・イェジンと、優男ぶりが人気の韓国俳優の中、ワイルドさで人気上昇中のチョン・ウソンです。

社長令嬢のスジン(ソン・イェジン)は、勤め先の上司との不倫に破れたばかりです。傷心の彼女を気遣い、外へ連れ出してくれた父親の仕事先で、以前ふとしたことで会った現場監督のチョルスと再び巡りあいます。お互いすぐに惹かれあった二人は、ほどなく結婚し、幸せな新婚生活を送ります。しかし物忘れのひどさを気にしたスジンが病院で診察してもらうと、彼女は若年性アルツハイマーに侵されているという、思いもよらないものでした。

冒頭今までのイメージから想像出来ないイェジンの厚化粧にびっくり。もうアルツハイマーが発病して、それで自分の行動がわからなくなった彼女が、濃い化粧で町をさまようのを映してから時間が遡るのかと思っていたら、不倫相手に捨てられるところからでした。駆け落ち相手が来なくて家に戻った彼女を優しく向かえる両親に、愛されてもいるけど甘やかされて育ったな、が私の直感でした。

案の定、チョルスと知り合ってから恋する乙女まっしぐらのスジンを観ていると、いじらしいを通り越して少々鬱陶しい感じがしました。あなただけよと、恋しい人がいなくば夜も日も明けなさそうな彼女を見て、これでは妻子アリの人とでも、見境なくなるわなぁと納得。

早いこと本題の夫婦愛に移ってよと思いながら観ていると、ふとこれってもしかして若い時の私かも?と感じました。周りも相手も鬱陶しいくらいの愛情の押し売りを、私もしていたような気がします。若い女性にはありがちな愛情表現でしょう。それが親の愛に恵まれず家庭を持つ気になれなかったチョルスの不安を払拭し、のち病魔に侵されたことを知ったスジンが仕事を辞めたいと言った時、「家にいてくれた方が俺も嬉しいよ。」と語る夫の気持ちを引き出したのかも知れません。妻のため出世しようと努力するチョルスの姿に、好き嫌いはあっても、古典的な若い男女の愛を表現するのには、間違ってはいないと思い直しました。

それが期待の病気に対して戦う夫婦愛になってからが、雑な展開に感じます。私は多少説明不足でもこの手の映画には完成度の高低に関係なく、びゃーびゃー泣くタイプですが、泣いたのはたった一度、病気発覚後のバッティングセンターでの二人の姿だけでした。どうも二人で病気に立ち向かって行く気力が今ひとつ弱いため、深みに欠け観客に訴える力が足りません。(以下ややネタバレ。終了後も感想あり)











二人だけで問題が解決が出来るわけはなく、当初経済的にも健康にも恵まれているはずのスジンの両親に相談もしません。この病気は社会的関心も高く、どういう風に若夫婦が対処していくのか、観客は見守っているはずなのに、親族に知られた後は、夫の世話にはなれないと妻は父親に離婚届を渡し施設に入り、居所も知らせません。これって何?あげく自分から夫に手紙を出すなど、居所を知らせる行動に出て、言うこととやっていることがチグハグです。それも病気のせいにするには、ちと都合良すぎです。元不倫相手がスジンの病気を知らずに訪ねた時、相手が血みどろになるまでチョルスは殴りますが、この表現もどうもいただけません。記憶が自分と元不倫相手とを混濁してしまう妻に落胆する気持ちがさせる行動だと理解出来ますが、これではただの暴力。愛する妻の記憶から自分がなくなる哀しみを表現するには、別の方法が効果的だったと思います。











ヤヤバレ終了



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10月30日(日)
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