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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「毒婦高橋お伝」(チャンネルNECO)
新東宝と言う映画会社の名前をお聞きになったことがおありでしょうか?
戦後の1950年前後に、東宝で契約やら何やで映画が作れなかった時、
何でも良いから映画が作りたい!という動機で作られた映画会社が、新東宝です。初期の頃は、溝口健二の「西鶴一代女」など、格調高い名作もありますが、カルト的人気を誇るのは、1962年の倒産までのラスト5年に作られたエログロ作品です。この「毒婦お伝」は、新東宝を代表する美人女優・
若杉嘉津子主演の作品で、格調高くもなくエログロでもありませんが、一人の悪女の深情けを描いて、世話物として魅力的な作品です。

明治の初頭、毒婦と称され今で言うところのマスコミの餌食となり、斬首刑された高橋お伝がモデルですが、殺人を犯した部分は本当ですが、筋は大幅に脚色しており、観客がお伝の心に感情移入し易く作られています。

放蕩者で身代を潰した前の夫に三行半をつきつけ、今のお伝は士族の出ながら肺病のせいで落ちぶれてしまった夫と、貧乏長屋で二人暮しです。前夫との間には、可愛い盛りの娘がおり、前夫の元に置いてきた娘がいつも気がかりです。今のお伝は、夫に内緒でスリや万引きの品を換金して生計を立てており、万引きを見つけられた巡査を色仕掛けでたらし込むは、万引きの尻尾を捕まれた宝石店の店主(丹波哲郎)には、警察へ引き渡す代わりに裏で人身売買をしている片棒を担がされ、美貌なため半ば強引に情婦にまでされてしまうはで、したたかに生き抜いています。

しかし鉄火な印象を受けても、彼女からあばずれだとか汚れた印象はあまり感じないのです。お伝は夫に男出入りを疑われ、髪の毛を引きずられても夫の体を心配し、献身的に看病し、決して邪険に扱うことはありません。前夫の放蕩には三行半を突きつけても、病気の今の夫が甲斐性がないことには、不満である素振りは見せません。そして置いてきた娘に心を馳せる表情は、身を切られる思い出あろうことがわかります。

これは筋立てもありますが、演じる若杉嘉津子の魅力に他なりません。とにかく美しいのです。付けまつげをした白塗りの芸者風のメイクが陶器のような肌に映え、当時では珍しいくっきりした目鼻立ちは憂いを帯びた表情を何度も見せ、バタ臭くささではなく堅気でない女の艶や仇っぽさを感じさせ、悪女の純情や深情けを演じるにうってつけでした。

宝石店の番頭がお伝に横恋慕し、彼女の夫を殺害します。それを知った店主は番頭を殺害。お伝はとうとう人殺しにもかかわることとなります。万引きの一件以来、お互い本気で愛し合うようになった巡査にお伝は捕まりますが、「私のお腹にはあなたの子が・・・」と嘘をつき逃げた後、置いてきた娘を引き取り今度こそ堅気になろうと娘の所に駆けつけたお伝ですが、元夫が病気の娘をほったらかしにしたせいで、娘は死んでいました。

騙した恋しい巡査にお伝は置手紙を残すのですが、「私のことは早く忘れて、どうぞ御出世あそばされ。」で結ばれた手紙の内容のあまりの女心の切々とした哀しさに、私はしばし感動。古い邦画を観る時良く感じることなのですが、情緒を感じる響きや暖かい情感、日本語とはなんと素敵な美しさを持つ言葉なのだろうと、この手紙からも感じました。

横浜の異人街へ逃げたお伝は、今は宝石店店主から表は酒場、裏は人身売買の組織を束ねるようになった情夫と富と権力を握りますが、彼女に許しを乞いにきた元夫に情夫の殺害を依頼。相打ちのように死んでしまった二人に、
お伝は「やっと復讐出来たよ・・・」と亡くなった娘につぶやきます。
逃げようとした時、あの巡査が現れるのですが、彼に似つかわしい傍らの婚約者を見るや、心とは裏腹に「私が好きなのはお金だけさ、あんたなんか好いちゃいないよ!」と啖呵を切り、あげく警察に捕まります。

江戸時代の名残を残す町並みや家、中国風のモダンな屋敷、豪華な調度品など筋以外にも見所があり、モノクロ作品であるのが残念なくらいでした。

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07月10日(土)
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