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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フランケンシュタイン」
孤独に生きる自分に、伴侶が欲しいとヴィクターに望む怪物。老人との穏やかで幸せな日々が、怪物を孤独を怖れる者に成長させたのに対して、あらゆる憎しみに囲まれ、孤独の意味も解らないヴィクター。憎悪とは、幸せを遠ざけるものなんだと、痛感しました。

両手いっぱいの憎しみに対して、微かな愛。お互いに歪な愛憎を胸に、命をかけて苛烈な戦いを繰り広げる二人。ヴィクターが精魂尽きかけたその時、何が起こったか?怪物が一番たくさん口にした言葉は、「ヴィクター」でした。その深い意味を自分で探し当てたヴィクターが、何を語ったか?名前もつけず、怪物を称して、「あれ」としか表現しなかったヴィクターが、怪物に何と呼び掛けたか?涙が止まりませんでした。

演者では、何と言ってもジェイコブ・エロルディが出色です。ハンサムな容姿を特殊メイクで隠しながら、目の表情、身体の動きで怪物の感情、成長を、余すところなく表現しています。

ミア・ゴスも、当時としては背徳の貴婦人だったでしょう。しかし正義を貫く芯の強い女性を、ゴシックホラーに似つかわしく、幽玄に演じていて、好演です。

オスカー・アイザックも、ほぼ敵役のようなヴィクターを熱演していました。熱演だけど無難な印象で、これはジェイコブとミアが良すぎたので、割を食ったかと思います。

老人が、怪物に「忘れることだ。そうすると、許せるのだ」と、実に含蓄のある言葉を語ります。人が年齢を重ねると物忘れが激しくなるのは。それは神の恩寵なのだと、私は思っている。でも哀しいかな、ついさっきの事は忘れるのに、昔の事を忘れられない。その事に苦しむ時があるのは、私だけではありますまい。でもね、その苦しい時は、相手を憎むのではなく、自分で自身を抱きしめればいいのよ。そして当時の自分を褒めてあげればいいのです。自分を癒すのは自分なんだよ、きっと。

充実した穏やかな笑顔で、船を見送る怪物は、これから長い長い人生を一人で歩むはず。きっと辛い時哀しい時は、彼に愛をかけてくれた人々を思い出し、自分自身を抱きしめていくんだよ。彼の澄み切った目に、教えて貰った次第です。お時間があれば、是非劇場で、この感動を受け取っていただきたいと思います。

10月26日(日)
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