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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「国宝」

様々な人を翻弄して、「人間国宝」として頂点に達した喜久雄。自らもその才能に翻弄されたのに、「順風満帆の役者人生」と、的外れな評価にも微動だにしない。そんな喜久雄が、ある景色を観たいのに、観られないと言う。「上手い事、説明出来ません」と言う。その景色を見せてくれたのは、喜久雄の隠し子として生まれた藤駒の娘、綾乃(瀧内公美)。

「あんたなんか、父親と思た事、あらへん」と、自分を捨てた父に憎しみを隠さない、成人した綾乃。しかし、「お父ちゃん」と呼び掛ける彼女は、「お父ちゃんの舞台を観ると、お正月が来た時の、華やぐ気持ちになる」と言います。それは、憎いはずの父の姿を肯定してしまう、「親子の血」なのでしょう。歌舞伎役者として血筋の無い娘に、人として祝福して貰った喜久雄は、初めて観たかった景色を観る。それは大向うでした。娘に「声」をかけて貰ったのでしょう。これが血筋に対してのアンサーであると思います。

涙ながらに終えた鑑賞後、何故李監督が選ばれたのか?「悪人」「怒り」と、吉田作品との相性の良さだと思っていました。でも違うと思う。日本の伝統である歌舞伎の美しさと、相反する過酷な内幕を描きながらも、やはり歌舞伎は超一流の芸能だと、私は痛感しました。李監督は在日朝鮮人三世。日本人の血がなくとも、こんなに素晴らしく描けるのです。

俳優や監督だけではなく、作り手全ての渾身の作品です。この感動を、どうぞご鑑賞下さいませ。

06月10日(火)
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