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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フロントライン」

五年前この作品の舞台である、ダイヤモンド・エリザベス号の船上で起きた事は、まだまだ記憶に深い事です。この作品は、事実を元に作られた作品で、感動を呼ぶために作られたのではなく、、当時の事を語り継ぎ、貴重な教訓にするための作品なのだと、鑑賞後、深々と感じました。真摯で誠実な作品です。監督は関根光才。
2020年2月。未知の新型ウィルスに世界中が怯える中、横浜港に集団感染が始まったダイヤモンド・プリンセス号が入港する。ウィルス災害の専門分野で構成されるチームがなかった神奈川県は、災害専門の災害派遣医療チーム“DMAT(ディーマット)に出動を要請します。専門外だと悩んだ末、出動を決めるリーダーの結城(小栗旬)。厚労省から出向してきた立松(松坂桃李)と共に、陸で指揮を執ります。船に乗り込んだ医療者たちは、仙道(窪塚洋介)をリーダーに、医師の真田(池松壮亮)たちは、未知のウィルスとの闘いが始まります。
最後に出てきますが、きちんと事実を元に作られています。映画を観ていて、何も知らなかったんだなぁと、痛感しました。次々と感染者が現れ、パンデミックの様相を呈する船を、遠巻きに観ていただけだった私たち。船上は混乱はあっても、乗客は粛々と隔離されていたくらいに思っていました。なんて私の想像は貧困だったんだろう。
乗客はほとんど外国人。クルーも外国人。まず医療者側と言葉の壁があります。そして持病を持った人たちは、2週間の隔離で薬が足りない。素人には本当に盲点でした。コロナで亡くならなくても、薬が足りずに亡くなる人、過労で亡くなる人がいるのです。そして次々増えていく感染者。パニックにならない方が、おかしいです。
当初は仕事は出来るながら、冷徹な役人気質なのかと思っていたら、意外な熱さを見せる立松。結城をアシストするため、狡猾な手も使う。結城は結城で、国とDMATの医師たちとの板挟みに、迷いながらの指揮です。その時仙道は、「結城ちゃんは、どこを観てんの?厚生省やマスコミなの?観るのは患者でしょう!」と言い切ります。これは怒りではない。檄です。檄を飛ばしたんだよ。そして「みんなが結城ちゃんの”やれる事をやるだけ”という気持ちの元に集まっている」と言う仙道。
指揮官の迷いに、鈍る決断を後押しするのが、自分の役目と解っているのですね。あぁ「チーム」だなと感じ、胸が熱くなりました。チームみんなが結城を信頼しているのが、解かるのです。そしてリーダーだけではなく、リーダーに忌憚なく物申す事が出来る片腕が重要なのも、仙道を観ると、実感を持って解ります。
感染対策が手探りの中、防護服を着ながら診療に当たる医療者たち。観ていて、緊張と疲労が、如実に伝わってきます。感染症専門の医師(吹越満)の専門家からの観点のDMATへの非難をYouTubeにアップ。彼らへのバッシングを呼び、家族も含めての誹謗中傷が、世間からDNATの医療者たちに向けられます。DMATは皆ボランティアで、勤務先の許可を取って診察に当たっています。それが勤務先から出向を止められ、あげく謝罪にまで追い込まれる。
真田がその中傷に、何故反論しないのかと憤る。自分のために、妻子が巻き込まれるのが、耐えられないのです。ここも胸が痛む。妻が真田を心配しながらも、快くDMATの活動に送り出すのは、妻も夫の行いに誇りを持っているからでしょう。真田だけではなく、DMATの人たちが、医師という仕事を権力ではなく、社会的に責任ある仕事だと認識しているのが、手に取るように伝わってきます。
プライベートの充実が声高に叫ばれる世の中ですが、社会人として世の中に何が出来るのか、ほんの些細な事でも良いから、一人一人が行う事。それは尊い事なのだと、DMATや立松を観て、教えて貰いました。立松の「僕だって世の中の役に立ちたいと思って、役人になったんです」という台詞も、本当に痺れる想いで聞きました。
感染者含め医療者側も、まるで黴菌のように扱われた事は覚えていますが、勤務先にも同じような対応をされているとは、思いませんでした。この部分は、医療者側のご苦労が知れて、本当に知れて良かったです。
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06月15日(日)
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