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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「敵」
美術が飛び切り上手い!あの古い家、セットが絶妙でした。表情豊かに、儀助の人となりを表現していたと思います。年寄りの生活を最低限守るくらいには手を入れていて、台所や水回りのセットが絶妙でした。コンロは高齢者には危ないガスではなく電気。魚を焼く時はカセットボンベに魚の網焼き。なのに換気扇は古いままなのは、今の様式は家が古くて取り付けられないんだな。キッチンの導線はリアルに生活感が現れている。洗面台は冷たい水しか出ないのに、洗濯機の上には乾燥機があるけれど、ドラム式ではない。それと炊飯器!私も数年前に買い換えて、お米をお水に浸す時間なしに、研いで直ぐ炊ける事にびっくりしましたが、儀助もそうしていました。本当に最小限だけ「今」を取り入れて、彼が丁寧に人に迷惑をかけずに暮らしていた工夫を、美術は繊細に表現していたと思います。
長塚京三がとにかく素敵。インテリで人格者とされた内面に隠された、生臭さや煩悩の表現が秀逸。哀愁だけではなく滑稽さもあり、幾つになっても人間は老い切れはしないんだなと感じ、それもまた良しと感じました。モノクロ画面に照らされた女性3人は、艶やかでとても美しい。黒沢あすかは、鮮烈な役柄が多いですが、幻の妻に、可愛い良妻だったんだと感じ、彼女が好きな私は、嬉しかったです。滝内公美も素敵な俳優さんですが、美しさは今まで観た中で、この作品が群を抜いていました。
老人を描くと、孤独や哀愁に黄昏、または円熟を描く作品が多いですが、それらは掘り下げず、恥多き部分も満タンに描きながら、ユーモアと洗練さに満ちた作品です。場内ほぼ満員で、若い人もたくさん。出来れば身に詰まされない、若い人に感想が聞きたい作品です。
01月26日(日)
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