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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「サンセット・サンライズ」
私が一番心に残ったのは、自分は震災なんかどうでもいい、ただこの土地が好きなだけだ。自分はこの土地に何をすればいいのか、解らないと吐露する晋平に語り掛けた、ケンの言葉です。「見てくれるだけでいい。自分たちはいつも東京を見て育ってきた。でも東京の人は東北の事なんて気にもしていなかっただろう。それが震災になって、様々な所から、何かしたいと東北を気にかけてくれた。素直に嬉しかった」と告げたセリフです。

私は近畿地方では、まず真っ先に名前が上がる大阪、それも一番便利な市内に生まれ育ち、今も居住。「東京も」見て育ちました。「を」と「も」が、これ程人の境涯を分かつのかと、ケンの台詞で思い知りました。私も東北や北陸の人へ、何をすればいいのか、解らない。でもかの土地の食材や工芸品が目に付くと、積極的に買っていました。正に貧者の一灯だけど、原作者の楡周平もクドカンも岸善幸も、東北の人。それでいいんだよと言って貰ったようで、込み上げるものがありました。

愛嬌たっぷり天真爛漫、そして優秀さもチラつかせる晋作を、元気いっぱい演じた菅田将暉が好感度大です。私はこういう彼が好きです。如才なく家族とも同僚とも付き合う晋作ですが、どこか息苦しさを感じているのも解ります。宇田濱にご縁があったのも、これまた偶然ではなく、必然だったのでしょう。

聡明さの中に陰を隠したマドンナを演じる井上真央も秀逸。こんなに綺麗だったんだと、びっくり。地味な装いの中に、百香の内面の美しさと憂いも充分表現出来ていたと思います。それと特訓したんでしょうね、魚の捌き方が素晴らしい!なめろうなんて、一瞬に作ってましたよ。子供たちの声の入ったカセットを一人聞きながら涙する百香。彼女にとって、この涙は、生涯必要な涙なんだと思う。
びっくりしたのは、池脇千鶴。何?太った?中年太り?老けて別人みたいだったよ。お節介な中年女役で、相手の心にドスドス踏み込む様子には、イライラ。という事は、相変わらずお芝居は上手なのよね。あれは役作りと思いたい。どれくらいインパクトかと言うと、超古い例えで申し訳ないですが、「細腕繫盛記」で、綺麗なお姉さんだと思っていた富士真奈美が、「加代、おみゃーの好きには、さえねえずら!」と、瓶底メガネでいびり役で出て来た時と同じくらい、衝撃でした。

他には白川和子が印象深い。あの広い家を、丁寧に手を入れて、たくさんの食器も捨てられないのは、いつ息子たち家族が泊まりに来ても良いようになのです。私も年に数度、息子家族や息子たちが集まるので、食器が捨てられないのです。外食してもいいのにね、しんどいしんどいと言いながら、狭いキッチンで作っちゃう。懐かしいだろう、好きなおかずを食べさせたいんです。あの家には、たった一人で暮らしても、家族を想うシゲの暖かい心が詰まっているのです。それを息子たちが理解してくれた様子にも、涙しました。

家とは、人の心が宿るものなんだと、この作品を観て、改めて思いました。

さて、お互い思い合っていた晋作と百香はどうなったか?亡くなった夫や子供を忘れられない、忘れたくない百香にとって、「結婚」は禁句。これがウルトラCの秘策がありました。他人同士の三人が、きちんと親族として認められる方法です。この策にOKするなんて、章男父さんも進歩的だよ。大らかな晋作なら、百香の気持ちを尊重してくれるはずです。

私は海鮮が大好きなんで、画面に度々出てくる、当地のお料理の数々が、実に美味しそうなんです。もう涎ものでね、絶対に東北に行くぞ!と誓いました。これでいいんですよね、監督?まごころのこもった、素敵な作品です。

01月19日(日)
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