ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927473hit]
■「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
当時のハリウッドのお歴々が、実名でわんさか登場するのも、興味深いです。タカ派で知られたジョン・ウェインが、戦場に行ったことがないのは、今回初めて知りました。好戦派は何だか納得です。キングス・ブラザーズ社長(ジョン・グッドマン)が、トランボに脚本を書かせるなら、圧力をかけると言う輩に、バッドを振り回し応戦したのが痛快でした。「新聞に書くなら書け!うちの客は字なんか読めねぇ!俺は女と金のために働いてんだ!」には、大笑い。豪快で超俗っぽい社長をグッドマンがやると、とても愛嬌たっぷりです。
カーク・ダグラスがあんなに男気ある人だとは、感激しちゃった。彼のお蔭でトランボは、長年の偽名で書く事に終止符を打ちます。オットー・プレミンジャーも加勢しますが、彼がドイツ人だと言うのも大きかったかも。個人的には、プレミンジャーの描き方がツボで。本当にあんな強引でお茶目なサディストだったのかしら?(笑)。
思想だけで取り締まる赤狩りは、人権蹂躙も甚だしいもの。その終焉を、トランボの書いた「スパルタカス」鑑賞後の、大統領ケネディの「良かったよ。きっとヒットする」で表現するなんて、何て心憎い。常に着飾り、赤狩りの先頭で旗を振っていたコラムニストのヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)の、老いた素顔との対照が、とても印象深い。新しい時代の幕開けを感じさせました。
それから数年後、SWGで功労賞を受け取るトランボ。妻子への感謝と共に、敵味方の垣根を取り払い、時代の波に翻弄された者同士として、許し合おうと言う。この恩讐を超えた、慈愛深いスピーチに、感銘を受けない人はいないでしょう。自分を名乗れない不自由さと屈辱。映画ではトランボの不屈ぶりを主に描いていましたが、その陰の心労や屈託はいかばかりであったかを、本物のトランボの映像で、末娘への愛として語らせる挿入が、素晴らしい。
クランストンは、最初年齢が行き過ぎではないかと思いましたが、トランボの器の大きさと貫録を表現するには、彼しかいないのではないかと思えるくらいの好演。私の大好きなダイアン・レインも、「影の大黒柱」とも言える良妻賢母ぶりを、温かく好演。この妻なくば、ハリウッドは今のハリウッドじゃなかったかも知れないです。
トランボが生涯たった一度監督した映画は、「ジョニーは戦場に行った」です。公開当時私はまだ子供で、一人では怖くて映画館へは行けなくて、仕方なく小説の方を先に読みました。それが初めてのトランボとの出会いです。何故今トランボの生涯なのか?世界中が少しずつ右翼化しつつある感がある今、万が一自由が奪われ、言われのない罪をかぶせられたら?私はこの作品を思い出し、自分を奮い立たせたいと思います。この作品は過去に学び、現在を生きるための作品です。だから、あの慈愛深いスピーチが大切なのです。メトロの社長は、トランボの作品を評して言いました。「君の作品はラストに希望がある」と。
07月25日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る