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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「8月の家族たち」
当たり前の事をさも自分が偉かったように言われたり、自分に関係のない事を引き合いに出され、自分に近しい人の罵詈雑言(それも私には関係なし)を聞かされて。本当に辛いんですよ、聞かされる方は。バイオレットも私の母も、それは子供を服従させる事で、愛されることではないと、わからなかったのでしょう。
たった一度だけ、バイオレットが娘たちに初めて語ったであろう自分の母親の底意地の悪さ。私は母に愛されなかったから、子供を愛する術を知らないと。私の母も同じでした。父ベバリーもそう。何年間も狭い車で暮らした子供の頃の年月が、彼の人生に色濃く反映しているのだと思います。追いかけてくるその辛さからの逃避が、アルコールだったのだと思います。幼い頃両親に死なれ、親戚をたらい回しにされた私の父が重なります。人がそのような姿になったのか?そこには必ず理由があるものです。
心が満身創痍になり、とにかく逃げ出したかった実家。しかし少しのズレにも不寛容な自分に、バーバラは母を見たことでしょう。早くにその事に気づいた私は救われました。何故か?それは私が結婚して数年で、母が亡くなったからです。
私は幸いにも実家近くに住み、まだ若かった母のわがままにも付き合い、ガンの看病もし。二人姉妹だったので、バーバラのような感情を持ちながら、それを押し殺し、アイビーのように接していました。とある病気になったと告白するアイビー。何故バイオレットに言わなかったのか?とバーバラに問われ、「キズモノだと罵られるから」との返答には涙が出ました。姉の代わりに懸命に父母を支えてきたはずなのに、どんなにたくさんの言葉で、傷ついて来たことでしょう。うちの母親も絶対そう言ったわ。カレンの「私はママを愛しているわ」は本心です。三番目なので、ダイレクトに母の「毒」に当たってこなかったのでしょう。それなのに母より自分を優先させる様子は、三番目の特権です。
とんでもない事を仕出かした婚約者を庇うカレン。「人は完璧ではないの。誰でも過ちはある。姉さんのように白黒つけられる事ばかりじゃないわ」の言葉は、普通に聞けばとても寛容です。でもそれは、孤独を恐る心が言わせた言葉で、寛容さではないのです。罰せられるべき事も許してきたであろうカレン。自尊心のなさが男運のなさを招いているのです。彼女も両親から毒を受けているのですね。
叔母役のマーゴを含め、女性陣が100%役柄を観客に伝えるのに対し、男性陣が影が薄いかと言うと、さにあらず。ここに物凄く感心しました。シェパードは登場シーンが少ないのに、知性の中に物憂げな屈託を抱える様子は、母の語る若き頃の魅力の片鱗を感じさせます。大人しく地味な善人チャールズを演じるクーパーは、妻の尻に敷かれているように見えて、実は誰にも負けない夫としての器の大きさを持った人。素晴らしい!息子を演じるカンバーバッチは、いつものカッコ良さはどこへやらですが、負け犬青年の繊細な誠実さを演じて、印象に残ります。
そしてメイドのジョナを演じるミスティ・アッパム。傷つけあう家族を、ひとりひとり救い出す様子は、ネイティブアメリカンの差別を受けながらも、彼女が如何に愛に満ちた家庭に育ったかを、感じさせました。
私の母が亡くなったのは55歳。今から24年前です。生きていれば80前になる母は、どんなお婆さんになっているだろうかと思うこともあった私ですが、この作品を見て、心底母が早く亡くなったのは、子供孝行してくれたんだと、実感しました。
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04月24日(木)
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