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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ペーパーボーイ 真夏の引力」
ジャックは五歳の時、母が出奔。黒人メイドのアニタ(メイシー・グレイ)が、幼い時から心を砕いて育ててくれていました。しかし消えない母への慕情。ハンサムな彼が女性に奥手なのは、母の事が影を落としているからだと思います。それはウォードも同じ。兄弟は一度も母を詰りません。息子たちの様子に関心なく、女のお尻を追い掛け回す父の姿を描くので、それも納得でした。

ジャックだけが、どん詰まりの閉塞感を感じず、一途に事件やシャーロットに向かう様子が眩しいです。それが若さなんだと感じます。怪演しまくり、圧倒的な存在感の三人は、それぞれ主演を張れる実力と人気を兼ね備えている大物です。若手のザックは、演技的には遅れを取っていたかも知れませんが、その未熟さもジャックを描く味わいに感じ、私は良かったと思いました。

中盤まで丹念に四人を見つめていた作品は、終盤は一気にミステリーに突入します。もう怖い怖い。しかし腐臭漂う画面であっても、背筋の凍る場面であっても、この作品を終始貫いていたのは、もどかしい愛と哀愁だったと思います。

シャーロットがジャックに手紙を書いたのは、彼が大人になったからでしょう。女性を救うのは、少年ではなく大人の男性のはず。あの姿は、私はジャックが精一杯シャーロットの心に報いた姿だと思います。

アニタは語り部として、ずっと物語を補足してくれ、うまく機能していると思いました。。冒頭のやさぐれた彼女が、何故こんな風になったのかも、観ているうちに紐解かれ、最後には彼女の背中をさすってあげたくなりました。その他、当時の風俗や雰囲気は、とても上手に特徴を掴んでいると思います。

寂寥感を感じるアニタの語りで終わる今作ですが、でも私の脳裏に浮かんだのは、舟の上で事の全てを受け入れて、兄ウォードに無邪気にキスするジャックの笑顔でした。とんでもない怪作ですが、鑑賞後に哀しみと愛が胸に広がる作品です。リー・ダニエルズ、これからも追いかけたいと思います。

07月29日(月)
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