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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜」
思えばママも未亡人として苦労し、ため息は煙草の紫煙と一緒に吐き出していたのでしょう。それが毎日二箱吸った理由。思春期から焦がれていた人と結婚したファランギースは、夫の愛を得ることも出来ず専業主婦にも成れず。女は家庭にいてこそ幸せという、価値観に縛られていたのですね。彼女も眉間に皺を寄せ、怖い顔ばかりで、愛らしい独身時代の笑顔はありません。ナセリの娘(成人後キアラ・マストロヤンニ)も、明朗な子供時代の面影はなく、やさぐれて魔女のよう。監督は一見登場人物の中で、一番幸せな女性であったろうイラーヌの涙に、解放されず閉塞感に苛まれるイラン女性の苦悩を込めていたのかと思いました。女同士、その心が届いて、私の号泣に繋がったのかと思いました。
その他印象深かったのは、ナセリが俗物として嫌っていた息子が、一心に父親の回復を祈っていた事。それを感謝もしない傲慢な父親ナセリの様子は、父親ではなく、芸術家の選民意識に感じました。イラーヌの父親は、強い父権を持っていましたが、善き人でしたもの。
弘法筆を選ばすと同じで、ナセリは思い込みを捨て、バイオリンを弾くべきだったと、私は思います。だって彼の人生を彩った女性たちは、皆彼の音色を愛していました。ママがファランギースを選んだのは、心置きなく、息子にバイオリンを弾いて欲しいと思ったからだと思うな。弾き続ければ、ファランギースの心も潤い、イラーヌも彼の姿を影から見られたでしょう。ナセリの師匠の言葉の意味は、バイオリンの中ではなく、弾く人の心にあったと思います。
さらっと、本当に楽しく描いていたので、ラストの情念の篭った涙には、本当にもっていかれました。恋心、イランの内情、女性たちへの思い、芸術とは?などなど、盛りだくさんに描かれている作品です。それがたった90分ちょっと!「ベルセポリス」は未見で超残念。この監督さんも、これから追いかけて行きたいです。
11月18日(日)
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