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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「恋の罪」
いずみ自身は未熟でも好感の持てる女性です。元々夫を愛していると信じているいずみ自身、本当に愛しているのは「夫に愛されている幸せな自分」です。これも自己愛だけど、こういう錯覚は若い時にはあるものです。私がいずみを好ましく思ったのは、「セレブ妻」だから幸せではなく、「愛されている妻」と言う部分です。この感覚は大変品性が良ろしくってよ。退屈だから何かしたいと、日記に認めますが、「何か」と言うのはセックスなんですね。このままセックスなしで女が30迎えていいものか?と、日記にさえ書けない、いやいや自分でも認めていない風情は、慎ましく感じました。
と、いずみは好きだけど退屈だべと思いながら観ていましたが、今作のメフィストフェレス役・美津子が出てきてから、俄然活気を帯び、サスペンスフルな展開に。カフカが出てきたり、わかったようなわからないような「城」の引用、言葉は体だ、みたいな一見哲学風ないずみへのお説法は、あんただって観念でしか、わかってないんだろうと思っていました。
この見方は当たったようで、美津子の母親(大方斐紗子)が出てきてから、一層加速。美津子の神経を蝕んでいた原因は、実は母親との確執でした。それも実の父親を挟んでの女同士のドロドロの嫉妬。亡くなった父親の方も相当なもんで、あんな卑猥なポーズで娘のヌードを描くのですから、娘に欲望があったと思います。しかし瀬戸際の理性が鬼畜にさせなかった。そのせいで愛する者からの愛は生涯得られず、それが美津子の精神を蝕んだ一端です。美津子が可哀想なのは、そういう夫を観て、普通は女より母親が勝って離婚騒ぎになるはずが、この母は普通の夫の浮気のように相手の「女」を責めるのですね。これがため正常な大人になれなかった美津子。変態だけど相当切ないです。
女優はみんなすごく好演で、とても満足しました。圧倒的だったのは冨樫真。舞台女優さんだそうで、本来なら手足の長いモデル体型と羨ましがられるはずが、とても貧相に感じる全裸を晒し、表と裏の人格まで様変わりする様子を、声まで替えて大熱演。すっかり魅せられました。「冷たい熱帯魚」以上に体当たりの神楽坂恵は、決して美人でもなく演技も上手くなく、でもこの裸が使えるならば何でもしようという女優根性が天晴れ。とにかく一生懸命でいじらしいほど。私はこの子好きです。自分の「愛」の正体を観てからの演技は壮絶で、特に印象深いです。水野美紀は二人の堕落していく女性たちを、観客といっしょに見つめて行くという役柄を理解しての、抑えた演技が良かったです。
と、ここまで自分なりに咀嚼出来ているのに、何で私は誰にも感情移入できないのか?「人が人〜」の石井監督は、この作品の女性たち以上に名美をいたぶっていました。でも石井監督はいたぶりながら、自分も名美と一緒に地獄に落ちてもいいと思っていたんじゃないかしら?愛していたと思います。今作の女性たちは、世間から淫売と罵倒される女たちで、汚らしいセックスもたくさん出てきて、でも決して彼女たちは下劣には感じません。その辺に園監督の彼女たちへの敬意は感じるのですが、何というか冷静なんだな。決して冷徹ではないけれど。女が素っ裸なのに、傍らにいる男性が冷静だと、大変居心地は悪いわけで。一緒に地獄に落ちてはくれなさそうです。私は救ってくれないなら、一緒に地獄に落ちてくれる男がいいな。
それとも監督は、女が性に翻弄されて地獄に落ちるのはダメだと思っているのかな?和子の相棒の刑事のゴミ出しをする主婦のお話、覚えて置いて下さい。そして最後までエンディングを観て下さい。園監督、過激な作風の割には、案外倫理観はしっかりしている人なのかも。
田村隆一の詩、「帰途」の引用が何度も出てくるのは良かったです。本当にこの詩を理解したのが、全てから開放されたいずみだったと言う描き方も。昔亡くなった森瑤子のエッセイを読んで、英国人の夫を持つ拙い英語しか話せない自分が夫婦関係を継続出来て、現地人と遜色なくフランス語を話す妹が、フランス人の夫と離婚したという記述を、思い出しました。
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11月13日(日)
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