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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛する人」
自分に好意を寄せる上司ポール(サミュエル・L・ジャクソン)の気持ちを察し、自ら誘うエリザベス。そのしなやかな様子は、実母カレンと違い数々の恋の経験を感じさせます。しかし彼女はこの直後、信じられない行動を取ります。その様子に、「あの日、欲望の大地で」のシルヴィアが重なります。女が誰とでも寝るというのは、私は一種の自傷行為だと思うのです。幸せを望みながら幸せを怖れ、自らを堕落させ幸せから遠ざかろうとする。それは母親ときちんと向き合う事が出来なかった事に、起因していると感じます。エリザベスは頭では母を忘れていても、心では解決出来ていないからなのでしょう。「いつも必ずロサンゼルスに帰ってくるのは、私が生まれた場所だから」という吐露に、また号泣する私。
思わぬ妊娠に心が千々に乱れるエリザベス。彼女は誰にも告げずに産む選択をします。その頃カレンは昔の自分と対峙します。母が亡くなり、その呪縛から抜けだそうと試みているのでしょう。
重要な登場人物がもう一人。子供に恵まれない黒人の若妻ルーシー(ケリー・ワシントン)。母になりたいと熱望する彼女は、養子縁組を望みます。その事に待ったをかける実母。この母がおせっかいで鈍感、暑苦しく母性を振りまく人で、その母にルーシーは苛立ちます。しかし娘がどうしようもない苦しみに陥った時、この母はあらん限りの愛情で受け止めます。娘のお角違いの甘えには、毅然と叱咤も出来るのです。この真っ当な愛情のお陰で、ルーシーは見事に再生します。カレンやエリザベスの不器用さに比べ、一途に自分の信じた幸せを求めるルーシーの姿は、この下世話で善良な肝っ玉母ちゃんに育てられたからだなと、つくづく感じました。
盲目の少女とエリザベスのエピソードが滋味深い。心の目で語りかける彼女に、初めて自分の心を素直に出せるエリザベス。そして彼女の心には実母が膨らんで行くのです。けれどその後の展開に確信を持っていた私は、全く違う方向に話が進み狼狽して呆然。怒るのではなく、もう哀しくて哀しくてまた号泣。しかしその哀しさの先に物語は深く続いて行きました。
私は母には産みの親も育ての親もないと思っています。育てた人もしっかり母です。しかし生みの母は育てずとも、合えば一瞬に長い空白がなくなるのも事実。要はこの作品に出てきた別の母の言葉に尽きると思うのです。「あなたの事を思わない日はないわ」。子供の幸せをいつもいつも心から祈る人。それが母なのだと思います。
「あの子の目は母に似ているわ」という、カレンの嬉しそうな表情が忘れられません。人が死に人が生まれ、そして育てる。その自然の摂理の偉大さを、深々と感じさせる言葉です。
とにかく主演二人が素晴らしくて。べニングは最初の殺伐としたカレンから、慈愛に満ちた母の表情に変化して行く様子が唸りたくなります。ワッツも一見魔性の女を身にまとったエリザベスの、真の孤独を演じきってお見事。ワシントンも、応援したくなる猪突猛進のルーシーを熱演して、とても好感が持てました。男優陣の大人の男性っぷりもとても良かったです。
全ての女性に観てほしい作品。男性もジャクソンやスミッツ演じる人を見て、是非女性に対して真の優しさとは何なのか?を感じて欲しいと思います。早くも私の今年のベスト10候補作品です。
01月27日(木)
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