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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ハート・ロッカー」
最近の戦争を描く作品は、どれもこれも核には反戦があります。特にアメリカが描く戦争映画は、自国の反省を促したい内容ばかりです。しかしこの作品は、観ている間ずっと、好戦でもなければ反戦でもない。自国批判もありません。戦争映画では見慣れたサンボーンやエルドリッチのような兵士も描いていますが、主役はジェームズ。戦場でしか生きられない彼。泣くほど苦しいのに、彼は爆弾処理こそが一番の自分の居場所だと確信しているのです。「戦争は麻薬」、この言葉が彼に重なります。

そのラストのジェームズの選択には、恥ずかしながら私はとても共感してしまいました。しかしこの選択こそ共感こそ、不幸なのだと思います。何故私は共感した自分を恥じたのか?それはジェームズを身近に感じたからでしょう。サンボーンたちのような兵士と同じくらいたくさん、ジェームズのような兵士もいるのだと知らしめること。この作品に反戦の部分を感じたいならば、ここなのではないかと思います。男の子が欲しいと言っていたサンボーン。男の子の父親であるジェームズの選択を見ると、いつサンボーンもジェームズのようになってもおかしくない、そういう暗示に感じました。

主役のレナーはハンサムではなく、敵役か悪役が向く容姿ですが、今回難しいジェームズの内面を好演。オスカーの主演男優賞にもノミニーも納得の演技で、是非この作品以降も出演作が観たいです。マッキーとジェラティも地味ながら好演でした。ビグローはあまり名の知れた俳優を使いたくなかったそうで、その意図に三人とも上手く応えていたと思います。

こういう「拘り」は、男性特有のものではないかと思います。それを命懸けの「戦争」と言う場に持ち込んだのは、私は新鮮に感じました。ジェームズが自分の本心を吐露する相手に選んだのは、妻では無く同僚でもなく、赤ちゃんである彼の息子。子供が女の子なら、彼は誰にもこの思いを告げなかったでしょう。この思いやラストの選択が理解出来るか、それともバカバカしいと思うかで、作品はまるで違った感想になるかと思います。戦争映画としては、新たな視点の作品として、エポックメイキング的な作品になるかも知れません。

女性が男性心理を描くのは難しいと思われているのでしょう。女性監督の作品と言えば、押し並べて女性の特徴を生かした作品ばかりです。その中でビグローの作る作品は、異彩を放っているものばかり。しかし男性監督だって、巧みに女性心理を描き、納得させる作品を作っている監督は、いっぱいいるじゃないですか。その逆だって大丈夫だと証明してみせた「ハート・ロッカー」、是非明日は監督賞を取ってもらいたいです。

03月07日(日)
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