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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛を読む人」
対するマイケル。かつて愛した思い出の女性は、ナチスの親衛隊だったという重荷が、ずっと彼の人生を支配します。そして彼女の秘密に気付いてしまうという二重の重荷が、マイケルを生涯苦しめます。ドイツではナチスというと酔棄すべき対象として、戦後徹底的に学校教育で教えられたはずです。しかしハンナが目の前に現れるまで、マイケルはその事を身近に感じたことはなかったでしょう。かつてのナチスの残骸を観て回るマイケル。ハンナへの嫌悪と哀れさ、それが甘美だった思い出と混濁して、複雑という言葉だけでは、片づけられなかったでしょう。一生を支配したその感情のせいで、彼は離婚し親と疎遠になったのかと感じました。
後年意を決して、牢獄のハンナに朗読テープを送るマイケル。その事がきっかけで、自分の秘密を克服するハンナ。誰にも知られず誇りも傷つけず、彼女が秘密を克服する場所が牢獄だったなんて。しかし新しい自分に変わってゆく喜びにふるえる彼女は、かつてハンナの肉体によって、大人の男性への階段を上った、少年期のマイケルのようでした。今度はハンナがマイケルを貪り求めているのです。
恋する女性に戻ったハンナでしたが、マイケルのある問いで現実に引き戻されます。思えば秘密の為、何人の男性が前に表れても、卑屈になってしまう自分がいたのでしょう。かつての無分別な行動は、女性として年齢的に崖っぷちにいたハンナが、自然な自分を出せる、対等な恋を一度でもいいからしてみたいという、女心からではないでしょうか?それには20歳の年齢差は、重要だったのだと思います。
頑なに自分の誇りを守ったハンナですが、マイケルへの答えは、伝言に全て込められていました。不器用な誇り高さを最後まで守ったハンナを、私は理解してあげたいと、心から思います。
前面にハンナの哀しみが溢れているので、ともすればナチス擁護と誤解されないための配慮でしょうか、二役で収容所の生き残り女性を演じるレナ・オリンの造形が秀逸。私は大好きな女優さんですが、凛々しく気高く聡明なユダヤ人女性を好演しています。彼女の言葉からは、ナチスの罪は未来永劫許されないが、ハンナ個人は受け入れようとする隙間も覗かせます。彼女の好演で、欧米におけるナチスの存在が、他の国にも明確になったように思います。
レイフ・ファインズも相変わらず素敵。恋に苦しむ男の憂鬱を演じると、天下一品の人です。ジェレミー・アイアンズが老境に差しかかってきたので、この手のキャラは、当分彼の独壇場でしょう。しかし若き日のマイケルを演じたクロスが、レイフに見劣りない素晴らしい演技だったのは、嬉しい誤算でした。
年齢差のある男女の恋から始まる私的な事柄を、人の尊厳とは何か?、教育の大切さ、更にはナチスを通じて戦争についても考える時を与えてくれる、ぎっしり内容の濃い作品です。私は最初から最後まで、ずっと胸が締め付けられたままでした。傑作だと思います。
06月21日(日)
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