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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ある公爵夫人の生涯」
ジョージアナは世間的には良妻であれと頑張ったことでしょうし、夫の浮気も苦々しく思いつつ全て受け入れていました。しかし常に「私はこんなに頑張っているのに、何故あなたは・・・」という不満の思いが渦巻いていたのではないか?それが公爵の苦悩を理解し受け入れたエリザベスとの違いでしょう。子供たちと暮らすため、愛人と言う辛い立場に甘んじたことも、ジョージアナより、世間に長けた女性だと思いました。
一方のジョージアナの行動は、気持ちはわかるけど、男に走っちゃだめでしょう。しかし相手が、若かりし頃からの友人であったグレイだと言うのが、私には同情の余地ありでした。人生とは「あの時こうしていなかったら、いやこうしていたら・・・」という、「IF」が付きものです。ジョージアナは若い頃の夢がいっぱいであった自分を、グレイによって取り戻せる気がしたのではないかと思います。
二人の関係を知った公爵の態度は、現代の価値観からみれば批難されるものですが、当時としては当然でしょう。むしろ私はすごく寛大でびっくり。特にこのままなら、子供には会わせないといい、子供達が書いた手紙を置いて帰る公爵の姿には、哀愁がたっぷり。
昔、杉田久女の伝記「花衣ぬぐやまつわる」のドラマ化で、俳句のため家庭を捨てようとする久女(樹木希林)に、「子供はどうするんだ!」と迎えに来たのに威嚇する夫(高橋幸治)。妻は「何故子供ではなく、『俺』とは、仰いませんの?」と、真剣な顔で詰め寄ります。でも夫は砂を食み(海岸でのシーン)「子供」と言い続け、「俺」とは言いません。言えないのです。久女はそんな姿に夫の本心を見出し、家庭に戻ります。それは「子供」だけではなかったと思います。
公爵とジョージアナにも、同じ思いがあったように感じました。家庭に戻った彼女には、それ以降も問題がありました。あの当時、お手打ちまでは行かなくても、身ぐるみ剥いで追い出されても仕方ない様な出来事です。しかし公爵の決断は、一見非情に見えて、ジョージアナへの侘びと愛が入り混じったものです。ラスト、おずおずと妻の手を取る公爵には、自分に課せられた宿命からようやく解放され、不器用ながら妻への愛を示す姿は、とても温かいものでした。夫にしても、いつも純粋に自分の正直に突き進む妻はまぶしくて、自分は置き去りにされた気がしていたのかも。
その後の二人の様子がテロップに流れます。少々不可思議な関係ですが、後味は良いです。皆が皆、紆余曲折を経て、相手の立場や感情を思いやる、成熟した大人になったということでしょう。
コスプレ女優の冠がついても良さそうなくらい、歴史ものの出演が多いキーラ。今回も年齢より上の役柄ですが、当時としては新しい女性だったであろうジョージアナを、上手くこなしていました。でも何と言っても、この作品を支えたのは、貴族に生まれた憂鬱と屈折した妻への愛情を、繊細にペーソスたっぷり演じた、レイフ・ファインズに尽きると思います。下手な人に演じられたら、ただの我がままエロ親父ですよ。彼のお陰で、数段格調高い作品になったと思います。お行儀良すぎて、もうちょっと毒があった方がコクが増したでしょうが、これくらいにした方が、観客の間口が広がっていいかも。なかなか素敵な作品でした。
04月19日(日)
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