ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[928262hit]
■「おくりびと」
この辺脚本がもう少し練られていたらとも思うし、あとの展開の後味の良さを考えれば、不問にした方がいいのか、私の中で悩ましいです。
納棺の様子がとても見応えがあります。その様子は観てのお楽しみですが、とても厳かで美しいです。その様子は佐々木は力強く、大悟は優雅と個性が現れます。両方あの世への旅じたくとしては、とてもふさわしく感じます。思わず私も湯灌してもらって送って欲しいと思いました。
モックンがとってもいい。チェリストは想像するに、潰しの利かない仕事のはず。世渡りも下手そうな、でも誠実そうな大悟が、佐々木社長の口車の乗せられて、あれよあれよという間に一人前になって行く様子は、大悟の素直で純粋な性格が現れていて、良い意味で世間知らずは強いと感じさせます。チェロの演奏は吹き替えでしょうが、演奏姿は様になっていて、きっとたくさん練習したんだと思われます。
初めての強烈な死体処理に居た堪れない心地の大悟が、妻の体を求めるシーンが官能的です。夫婦のセックスは日常のことです。非日常の死を目の当たりにした大悟の戸惑いと苦しさは、妻の体を求めることで癒されたかったのでしょうね。素敵なシーンでした。
大悟がチェリストに夢を抱いたのは、チェロを弾くように指導した父への思いが、潜在的にあったと感じました。自分を捨てて行った父親を否定したい気持ちが、彼にそれを認めさせなかったのでしょう。表面的には静かでしたが、物語の中で顔の見えない父親の存在は大きく、死と表裏一体の生についても、血の繋がりを通して深く考えさせてくれます。この部分が効いているので、ラストは本当に泣かされました。子供に会いに行かないのではなく、会いに行けなかったのですね。本当は会いたくて堪らないのに、どの面下げて・・・という思いは、子供を置いて出奔した人皆が抱いている、と強く思いたいです。
出演者は全て良かったです。上に出て来ていない人では、吉行和子と笹野高史が印象深いです。広末涼子は評判悪いみたいですが、私は世間知らず同士の、素直で可愛い似たもの夫婦だと思って観ていたので、そんなに文句なかったな。良い奥さんぶりでした。
魂の器である肉体に、最後の尊厳を施す納棺師という職業を通じて、生と死、親子や夫婦の結びつき、人の縁など、人生について考えさせてくれる、肩の凝らない秀作でした。全く知らない方から、「あなたの好きな内容の充実した娯楽作とは、具体的にどういう作品ですか?」と尋ねられました。私が送った返事は、「わかり易くて面白く、様々な感情が刺激されること。平たく言えば感動です。観た後色々語れる作品ですかね?」でした。そういう作品です。
09月18日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る