ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[928270hit]

■「イースタン・プロミス」
キリルは父セミオンとの憎み合いながらも執着し合う愛は、母のいない哀しさも感じさせます。ひょっとしたら、キリルの母親から、息子だけもぎ取ったのかも?この非情で辣腕の父から観れば、キリルは出来損ないの息子でしょう。雑多なロンドンが息子を変えたとセミオンは語りますが、セミオンの息子であることが、キリルには最大の不幸なのだと感じました。マフィアのドンを継ぐにはゲイであることは許されません。自分を偽り、繊細で優しい感受性も父親からは抑え込まれ、重圧から酒浸りのキリル。彼の本当の心をラストに映し、救いを与えていたのが、父セミオンの行く末と対照的でした。

スタールもカッセルも良かったですが、特に印象に残ったのはカッセル。下手するとただのバカ王子になってしまうところを、賢くないところまで哀しさを滲ます好演で、すごく見直しました。キリルの存在は、この作品の多いなるアクセントになっています。

全編に渡り、ロシアからの成功した移民の様子が描かれ、それに重なるように、貧困からの脱出を夢見てロンドンに渡った、少女の独白が重なります。自分がのし上がるため、故郷の人々を平気で踏み台にし、骨になるまでしゃぶりつくすマフィア組織。生気の全く無い娼婦の姿を映し、違法にロンドンに辿りついた女性たちの行く末を暗示していました。

あまり目にすることがないロンドンの移民事情ですが、先進国と呼ばれる国では、同じようなことが人種を変えて起こっているはず。私がアンナのようになれるのか?と問われれば、それには尻ごみしてしまいます。しかし、ある種神々しい彼女のラストの様子から、他国出身の隣人について、学ばなくてはいけないとも思います。

ラストのドンデン返しも含めて、複雑な登場人物の感情も繊細に拾い上げ、充分深みを与えたことが、この作品を極上ミステリーとしました。もしかして、クローネンバーグがオスカー取る日が来るかも?その時も主役はヴィゴ様でお願い。

06月17日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る