ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927785hit]
■「消えた天使」
性癖もそうだと思うのです。自意識に組み込まれているか、無自覚なのかで全然末路は違うのです。それを体現していたのは、他ならぬエロルを演じていた、ギアだと思うのです。永遠の二枚目ギアに、一見暴走するうらぶれた、分別のないエロルはミスキャストです。ここで冒頭のエロルの独白が生かされると感じました。エロルは自分の性癖に自覚がなかったのでしょう(多分サディスト)。登録者を取り締まり観察するうち、彼もその深みにはまっていったのではないでしょうか?それらしい俳優を使うより、ギアに演じてもらう方が、リアリティがあったように感じます。
寸でのところで理性を働かせた彼が選んだアリスンは、家庭に恵まれず自傷行為を繰り返していた過去があります。エロルが彼女を選んだポイントはここだと思いました。彼女は変態ではありませんが、人とは違う自分の暗闇を自覚しているはずです。その彼女ならば、自分のように破滅せず、この仕事を全うしてくれると、エロルは期待したのではないでしょうか?だから彼は洗いざらい自分の恥部を見せるような仕事ぶりを、彼女に見せたのかと感じました。これは全て、倒錯した嗜好を持つ人が犯罪を犯す犯さないの分岐点がどこにあるか、それを伝えたかったためかと、思いました。
誘拐犯は、被害者が助手席の人間と話していたとの証言で、ピンとくるものがありました。大昔日本で若い女性の誘拐が頻発し、犯人を捕まえてみれば、あっと驚くような人物で世間は驚愕しました。その事件を私は覚えていたからです。この作品での凄まじい主犯格の犯人の様子と、重なるかどうかはわかりませんが。
惜しむらくは、エロルはアビゲイルという少女が被害にあってから、彼の暴走は加速したと語られますが、何故そうなのかが語られません。被害者の家族と自分に類似した箇所があるとか、そういう説明があれば、エロルの一連の行動により説得力がついたかと思います。
ラストの犯人の様子は、「セブン」のケビン・スペイシーを彷彿させました。格調高かった「セブン」に比べ、全体に薄汚いムードが充満している作品でしたが、私なりに性犯罪を犯さないためには?という糸口を感じ、決して後味は悪くありませんでした。
選ばれしアリスンを演じるデーンズは、ブロンドに赤い口紅という、普通はゴージャスな女性の性を表わすアイテムを用いながら、知性が勝る印象です。これも今後のアリスンに期待を寄せる表れかと思いました。
監督はアンドリュー・ラウ。凡作に感じた「傷だらけの男たち」、大勘違い純愛ロマンス「デイジー」と、立て続けに観ましたが、ようやく初ハリウッド作品で面目躍如のようです。私も自分が平凡な「変態」で良かったと、思わず安堵しました。やっぱりこの作品にして良かった。めでたしめでたし。
08月16日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る