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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「犬神家の一族」
犬神松子と言う人は、長女に生まれたため跡取り娘として暴君の父親が支配する家から出られず、母親とは幼い時引き離されたでしょう。夫はもうすでに亡くなり、頼りは一人息子の佐清だけのはず。竹子・梅子は婿養子を取るも、家からは離れ怨念の深い犬神家から離れ、自由に自分の家庭を築くことが許されたはずです。だから妹二人と松子は、苦しみの幹はいっしょでも、枝ぶりは全然違うのです。

金田一は「あなたは財産を独り占めにするため、佐竹さん佐智さんを殺したんですね」と言いますが、それは違うと思います。戦争であんな顔になってしまい、財産も一円も相続出来なければ、佐清は妻を娶ることも出来ず、最悪路頭に迷うこともあるかも知れない、そう母親なら思って当たり前です。
珠代に選ばれる選ばれないは、佐竹・佐智より重みが全然違うのです。

今回もセリフにあった「お前が偽者だなんて、珠代の嘘だよね?」の松子のセリフには、高峰版松子には、母の必死の盲愛と執着、哀しさと甘さ、そして世界の誰より息子が大切、そんな思いの丈が、たったあれだけのセリフに感じられましたが、今回の松子にはそれがありませんでした。

思うに高峰三枝子も夫と別れ、女で一つで一人息子を育てた人です。その息子は確か品行に問題があり、警察沙汰を起こしたことがあったはず。「お前が偽者だなんて」は、「お前があんなことをしたなんて、嘘だよね?」の、高峰三枝子の気持ちが被さっていたのではないかと思います。真実はわかっているのに見たくない知りたくない、愚かで切ない母心です。

ミドルティーンだった当時の私が松子に理解を示し、自殺のシーンで泣いたのは、自分の全てを注いだ高峰三枝子の名演技が呼んだことだったんだと、今思います。今回富司純子は立派な演技をしているのに、幸せさが透けて見えてどうも感情移入出来ない松子でした。

キャスティングって大事なんですよね。元作を知らない方は、今回の松子で十分だったと思います。犬神松子を、どうぞひどい女だと思わないでね。

今年はこれで感想文は〆です。
皆様、お付き合いいただきありがとうございました。
どうぞ良いお年を。

12月30日(土)
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