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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「王の男」
自分も孤児同然だったはずのコンギルの母性的な与える愛は、どこから来たのでしょうか?コンギルとチャンセルが同室で眠る時、そっとチャンセルがコンギルに布団を掛け直します。その時そっと目を見開いたコンギルは、この暖かい心を、王にも感じて欲しいと願ったのではないでしょうか。コンギルをこのような優しい男に育てたのは、影になり日向になりコンギルと暮らしてきた、チャンセルだったように感じました。

チャンセルにその自覚はなかったはずで、一見チャンセルの方がコンギルへの思いが強いような印象ですが、チャンセル以上にコンギルにとっては、チャンセルはなくてはならない存在だったはず。それを随所に張り巡らせ演出が心憎いです。

少々ツメが甘いと感じたのは、王の造形です。あれでは少し精神に異常をきたした人のようです。そうではなく、まともな精神状態に描いていたら、彼の行いにもっと震え怯えた感覚が残るはずで、より狂気が感じられたでしょう。あの様子では仕方ないような、同情心が沸いてきて、重臣の方が悪く描かれていた気がします。主君に逆らう家来の無念さや辛さも描き、ただのわからずやではなく、本当の意味での冷酷無残な国王として描けば、もっとコンギルに執着した部分も盛り上がったと思います。とはいえ、これでも充分に満足していますが。

数奇な運命を辿るこの三人のラストは、やはり張りのあるチャンセルの大道芸の始まりを告げる声でスタートしました。この演出に、私も息を吹き返したようなコンギルと同じく、生命力を感じました。一世一代とも言える二人の芸に心躍らし、哀しい末路にも爽快感とカタルシスを感じさせました。もう一人、王の愛を取られ、あれこれ策略をめぐらせたノクスが、愛妾として男をとろかすプロとして、最後に見せた女の意地にもグッと来ました。彼女もまた高級娼婦のようなキーセンの出で、最下層の人。人品や格は出身層にあらじ、その心栄えに全て有りと言うことで。

12月17日(日)
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