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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「手紙」
リサイクル工場時代から直貴に好意を寄せ、影になり日向になり直貴を支える由美子。親の借金から家族バラバラになり、逃げ隠れした日々を糧にして、前向きで芯の強い明るさがとても好感が持てます。演じる沢尻エリカも良かったのですが、あの変な関西弁は何故?彼女は「パッチギ!」では、非常に上手く関西弁を喋っていました。関西出身を匂わす必要も無く、難しいのなら標準語を喋っても良いと思いました。地味な賄い婦から一転、いきなり流行最先端のギャルになるのも謎。いくら美容学校に通うようになったと言っても、あれでは極端過ぎです。

兄のことで直貴を左遷した会社の会長(杉浦直樹)の言葉が印象的です。理不尽な会社の行いに怒った由美子が陳情したため直貴に会いに来たのですが、一平社員のことでわざわざ足を運ぶ姿に好感が持てます。逃げ隠れせず、自分の姿を見てもらって、理解を得、この会社からイチから始めるんだと語る会長。その言葉には、功なり名を遂げた年長者の、生きてきた観て来た重みがあります。そしてその意味が、私にはものすごく理解出来ます。

私も在日韓国人という、差別される側の人間です。差別も少なくなった現在でも、私が在日であることだけで毛嫌いする人はいるでしょう。それが私の背負う宿題だとしたら、私を見て判断してもらうしかないないのです。何度も兄から逃げ嘘をついてきた直貴ですが、逃げても逃げても、そのことは追ってきます。ならば真正面から受け止めるしかないと思うのです。直貴は露見する度逃げてきました。逃げるなと言われたのは初めてだったのではないでしょうか?

由美子が剛志のことで娘が虐められると、「あなたと私の子よ。絶対跳ね返せるわ。」と語りますが、これは取りも直さず「血」という意味でしょう。ならば直貴は「人殺しの血」も流れているのです。反語のようですが、差別感情を肯定していることにもなるのです。人とは、知らず知らずのうちにその人に流れる血を見るのでしょう。差別など悪に決まっていますが、良い悪いではなく、世間とはそういうものなのだと思います。人は弱いということです。ならば直貴は(私は)受け入れ受け止め、生きていくしかないのだと感じました。但し学校のいじめなどの件でこういう意識を求めるのは、場合によっては危険だと個人的には思います。

意を決して被害者宅にお焼香に向かう直貴。息子(吹越満)の憔悴ぶりが強く印象に残ります。「あなたの兄さんのしたことで、あなたには関係ないので、焼香は断りたい」と語る一見冷たい息子は、実は一番直貴の辛さを知っていたのではないかと感じました。加害者・被害者、どちらも残された家族は生活が一変し、想像以上の辛さを味わうのだとわかります。剛志からの最後の手紙を機に、事件を終わりにしたいと語る息子。許せるとは死んでも言えないでしょう。「僕にもあなたにも、長い六年でしたね」と語る息子の姿は、直貴への最大の労いだったと思います。

私は縁は切っても血は切れないものだと思っています。どんなに不束な親兄弟でも、自分は他人と思っていても、世間はそう思ってくれません。自分が罪を犯すと、親兄弟が悲しみ大変な苦労する。そう思考が回らないような犯罪が多くなった昨今、この作品を観て改めて軽はずみな行動は慎もうと思った人は、私だけではないでしょう。そして隣人に直貴のような人がいれば、私だけはその人を見て判断しよう、この作品を観てそう誓った人も多いと思います。世間の冷たく厳しい場面ばかりを映し、直貴に試練を与えながら、実はそれが一番言いたい作品だったように思います。

11月09日(木)
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