ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[928176hit]

■「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」
この後源三郎に化ける吉田輝男に爆笑させられっぱなし。いや監督にはそんなつもりはなかったんでしょうが。だって老乳母さんが、夜中今にも化け猫に変身しそうな怪しさで、行灯のような暗がりの中でですよ、「旦那様のお写真を観ていたんですよ・・・」と薄気味悪く語れば、何か感づいてるぞの伏線だと思うでしょ?それが写真を観て「源三郎は左利きだったのか!ふぅ〜、危ないところだった・・・」と、吉田輝男の独白が入り、たったそのためのシーンなわけ。他にも源三郎の日常を知らない広介は、メガネを使わなかったり、飼い犬に噛み付かれそうになったり、左手で字が書けないので、わざと証書の上のお茶をこぼしたり、もう怪しい怪しい、怪しすぎ!なのに誰も気づきません。

それどころか妻も愛人も「抱いて・・・」と迫るのに、バレたらどうしようと、すんごく葛藤するのに(←とても笑えます)、結局両方ともとベッドイン(布団インか?)。「源三郎になりきるため、ボクは神経をすり減らした・・・」と独白が入る割には、結構お楽しみじゃん。この手のお楽しみシーンは、当時の東映やかつての新東宝では必須アイテムだったみたいです。

それが一転、父親に会いに無人島に渡ると、かなり気持ち悪くタイトル通りの世界観が繰り広げられます。自分が奇形であったため人に蔑まれた丈五郎は、この島で奇形人間の楽園を作るつもりで、健常な人をさらってきては、人工的に奇形にしていました。この奇形の様子が、私の想像を絶しておりまして、身体障害というよりインモラルな雰囲気がプンプン。人間と動物を合体させたり、男女のシャム双生児を作り上げたり、人間を川に放ち、魚のように飼ったり、家畜のように草を食ませたり。グロいというより、精神的にやられる造形です。中には昔懐かしの金粉ショーのような人もいましたが。しかし演じるのは丈五郎を演じる土方巽の率いる舞踊家たちなので、アングラの風味が加味され、観るに耐えない醜悪さ、というのではありません。

土方巽は「暗黒舞踊」という新しい表現方法の舞踊の創始者で、身体障害を持ち心も病んでいる丈五郎を、確かに薄気味悪く演じているのですが、その体をクネクネさせて丈五郎を表現する様は妙な力強さと繊細さがあり、異形の哀しみが溢れています。広介に「あなたは狂っている」と表現される彼の内面は、それは繊細な神経の持ち主だから、狂人になったのではまで思わせます。

実は(予想通り)広介と源三郎は双子で、奇形人間の理想郷を作ろうと思った丈五郎は、広介を養子に出し、外科医にさせ奇形人間を作り出そうとしていたのです。父に脅され渋々承諾する広助ですが、愛し始めていた人工的にシャム双生児にされていた秀子の分離手術を条件にします。三国一の花嫁と謳われた彼らの母は、障害者の丈五郎を嫌い、愛人を作ったのです。怒った丈五郎は二人の出産後、愛人と妻をこの島に監禁、食事も与えず放置します。愛人だけが死に生き延びた妻は、その後丈五郎の手によって、醜いせむし男に犯され、初代と秀子を産みます。二人がそのことを知ったのは結ばれた後なのは、丈五郎の思惑通りでした。

コメディかいと爆笑したり、痛々しかったり、薄気味悪かったり、感情がアップダウンというか、アップしっぱなしの中、どうまとめるのだと思っていたら、下男に化けていた大木実が実は明智小五郎だったということで、10分もかからずに事件の謎を解決(依頼者もいないのに)。執事の小池朝雄と丈五郎の姪静子が黒幕だったのですが、内容はどうでもいいので割愛。ただ小池朝雄が(カッカッカ)。意味無く性倒錯者という設定なので、女装で女王様のごとく振舞ったり、人間椅子になったり、「屋根裏の散歩者」に出てきた殺害の仕方をやっていたりと、この10分が大忙し。最後まで笑いに手を抜きません(えっ???)。

きっとこのまま丈五郎は殺されるか自殺するんだろうなぁと思っていると、明智に追い詰められた彼を、なんと二十数年丈五郎に弄り者にされていた妻が、「この人を許して下さい!この人がこうなったのは私のせいなんです。私が全て悪いんです!」とかばうではありませんか。意表をつかれた私。


[5]続きを読む

09月22日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る